人類は火星に住めるのか?|移住を阻む「3つの課題」

少し肌寒い夜、街灯の少ない場所で夜空をじっと見上げていると、他の星とは明らかに違う、妖しくも力強い「赤色の光」を放つ星が見つかることがあります。それが、私たちの地球のすぐ外側を回っている惑星、火星です。

映画や小説、あるいはニュースの中で、「人類が火星に移住する」という話を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。単なるSFの夢物語だと思われていたこの計画は、今や世界中の科学者たちが本気で実現を目指す、現在進行形のプロジェクトになっています。

しかし、なぜ私たちはわざわざ遠い宇宙にある別の星へ行こうとしているのでしょうか。そして、あの乾いた赤い星で、私たちは本当に暮らすことができるのでしょうか。今夜は、火星が「第二の地球」と呼ばれる理由と、そこへ移住するために人類が超えなければならない仕組みについて、やさしく紐解いてみましょう。

火星の夕焼け
Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
目次

なぜ火星が「人類の移住先」に選ばれるのか?

太陽系にはいくつかの惑星がありますが、なぜ金星や木星ではなく、火星なのでしょうか。その理由は、火星が太陽系の中で「最も地球に似た環境を持つお隣さん」だからです。

たとえば、火星の1日(自転周期)は約24時間39分で、地球とほとんど変わりません。さらに、地球と同じように軸を傾けて回転しているため、火星にも春・夏・秋・冬という「四季」が存在します。もし別の惑星、たとえば金星に行けば温度は400度を超えていますし、木星にはそもそも地面すらありません。そう考えると、地面があって、1日の長さも四季もある火星は、人類にとって圧倒的に過ごしやすい大本命の星なのです。

なによりも大きな理由は、火星の地表や地下に「水」が氷の状態で大量に眠っていることがわかった点です。水があれば、飲み水にするだけでなく、分解して呼吸のための酸素を作ったり、ロケットの燃料にしたりできます。火星には、人類が生き延びるために必要な資源が比較的そろっていると考えられており、太陽系の中でも特に有力な移住候補とされています。

火星移住を阻む「3つの課題」

とはいえ、今の火星にそのまま宇宙服なしで降り立てば、人間は一瞬も生きていることはできません。地球に似ているとはいえ、やはりそこは過酷な宇宙です。人類が移住するためには、大きく分けて3つの高い壁を乗り越える必要があります。

火星は極端に寒い

火星は地球よりも太陽から遠いため、光が十分に届きません。平均気温はなんと「マイナス60度」です。夜や冬ともなれば、マイナス100度を下回ることも珍しくありません。

火星には呼吸できる空気がない

火星の空気の濃さは、地球の100分の1以下しかありません。しかも、その大半が二酸化炭素です。人間が深呼吸をしても、そこには吸うべき酸素がほとんど存在しないのです。

火星には有害な放射線が降り注ぐ

地球は、目に見えない巨大なバリア(磁場)で守られていますが、火星にはそれがありません。そのため、宇宙から人間にとって非常に有害な放射線がダイレクトに降り注いでいます。

ここで、この記事で大切になる3つの言葉を整理しておきましょう。

  • 放射線:宇宙空間を飛び交う、人体に有害なエネルギーの強い光や粒子のこと。
  • 温室効果:大気が赤外線を吸収し、天体の表面温度を温かく保つ仕組み。
  • テラフォーミング:天体の環境を人間の住める状態へ人工的に改造すること。

地球を「完璧な断熱材とエアコンがついた快適な家」とするならば、今の火星は「窓ガラスがすべて割れ、暖房もないコンクリート剥き出しの小屋」のような状態です。この小屋を、どうにかしてリフォームしなければなりません。

火星を「人が住める星」に変えるテラフォーミング構想

では、私たちはどのようにして火星の環境を変えていけばいいのでしょうか。科学者たちが考えているリフォームの計画、すなわちテラフォーミングの最初の一歩は、「火星を温めること」です。

火星の北極や南極には、ドライアイス(凍った二酸化炭素)が大量に積み重なっています。ここに巨大な鏡で太陽の光を集めたり、あえて火星の地表で工場を動かしてガスを発生させたりして、このドライアイスを溶かします。

すると、溶け出した二酸化炭素が大気中に広がり、火星の空気を少しずつ厚くしていきます。二酸化炭素は、熱を閉じ込める温室効果がとても高いガスです。空気が厚くなり、温室効果が強まれば、火星の気温は自然と上昇していきます。

気温が上がれば、地下に眠っていた氷が溶けて「液体としての水」が地表を流れ始めます。そこに、二酸化炭素を吸って酸素を作ってくれる特殊な藻類や植物を植えることで、何百年、あるいは何千年という時間をかけて、少しずつ人間が裸足で歩けるような「緑の星」へと作り変えていくのです。これが、科学者たちが描いている火星移住の壮大な仕組みです。

人類は本当に火星に住めるのか?

もちろん、星を丸ごとひとつ作り変えるような大工事が、数年や数十年で終わるわけではありません。私たちが生きている間は、頑丈なドーム基地の中でひっそりと暮らすような、限られた移住になるでしょう。何世代にもわたるリレーの果てに、人類がより軽い装備で火星を歩ける未来が来るかもしれません。

それでも、私たちが生きているこの瞬間にも、無人の探査機が火星の赤い砂をかき分け、未来の私たちの家となる場所を調べ続けています。人類が別の星で生きるための挑戦は、もう始まっているのです。

もし今夜、晴れた空が広がっていたら、ベランダに出て南の空を探してみてください。あの小さく赤く輝く光の粒は、ただの冷たい天体ではありません。いつか人類の子供たちが生まれ、新しい歴史を刻むことになる、未来の「私たちのふるさと」かもしれないのです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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