人類が火星に移住するためにクリアすべき「5つの課題」

ソジャーナからパーサヴィアランス、そして日本のMMXまで、火星には数多くのロボットたちが挑んできました。

彼らの活躍によって、私たちは火星の景色を鮮明に見ることができるようになりました。 赤茶けた大地、青い夕焼け。 それを見ていると、ふと思うことがあります。 「いつか、私たち人間もあそこに立てる日が来るのだろうか?」と。

SpaceXのイーロン・マスク氏は「2050年までに100万人を火星に送る」という目標を掲げています。 しかし、現実は残酷です。 生身の人間にとって、火星はまだ「現状の火星環境では、装備なしでは生存不可能な世界」です。

今日は、私たちが火星の土を踏むためにクリアしなければならない、5つの「難題」について解説します。

火星の夕焼け
Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center

目次

難題1:空気(酸素)はどうする?

人間が生きていくのに絶対に必要な酸素。 火星の大気は96%が二酸化炭素です。そのまま吸えば即死です。

しかし、これは「解決できそう」です。 探査車パーサヴィアランスの「MOXIE」という装置が、火星のCO2を電気分解して酸素を作ることに成功しました。

これを巨大化させたプラントを建設すれば、呼吸用の空気は「現地調達(ISRU)」できます。 ここは、人類が唯一「クリアの目処」が立っている課題と言えるでしょう。ただし、酸素の作成には電気が必要なので、課題4のクリアが必須です。


難題2:水はどうする?

水も、なんとかなりそうです。 火星の地下や極地には、大量の「氷」が眠っていることが分かっています。

ドリルで地面を掘り、熱を加えて氷を溶かせば、飲み水や、酸素・水素燃料の原料になります。 ただ、「言うは易く行うは難し」。 マイナス数十度の極寒の世界で、重機を動かして採掘し続けるエネルギーをどう確保するか。それが次の問題に繋がります。


難題3:土が「毒」である

ここからが深刻です。食料を作るための「農業」です。 「映画『オデッセイ』みたいに、火星の土でジャガイモを育てればいいじゃない」 そう思いますよね?

実は、火星の土壌には「過塩素酸塩」という物質が多く含まれています。 これは人間にとって「猛毒」です。 甲状腺に異常をきたし、最悪の場合は死に至ります。

つまり、火星の土はそのままでは畑に使えません。 化学的な処理をして毒を抜くか、あるいは土を使わない「水耕栽培」をする必要がありますが、その水を循環させるシステムもまた、完璧でなければなりません。


難題4:電気がない

人間が暮らすには、酸素プラントを動かし、氷を溶かし、植物を育てるLEDを点け、暖房を入れる……という、膨大な電力が必要です。

  • 太陽光: 火星は太陽から遠いため、発電効率は地球の半分。さらに「全世界を覆う砂嵐」が来れば、数ヶ月間発電ゼロになります(オポチュニティの死因です)。
  • 原子力: 現在のローバーが積んでいる「原子力電池(RTG)」は100W程度。人間が住むには、本格的な「原子力発電所(キロパワー計画など)」を持ち込むしかありません。

そして何より、「巨大な蓄電池」が必要です。 夜間の極寒(マイナス90℃)を耐え抜くために、エネルギー密度と低温特性に優れたバッテリーを、どれだけ大量に持ち込めるか。 ここが生命維持の生命線になります。


難題5:見えない弾丸「放射線」

最後にして最大の壁。 地球には「磁場」と「厚い大気」というバリアがありますが、火星にはそれがありません。 宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)が、地表に直接降り注いでいます。

生身で地表に立てば、発がんリスクが激増します。 そのため、火星への移住者は、景色の良いドーム都市ではなく、「地下の洞窟」「土を分厚く被せたシェルター」の中で生活することになるでしょう。 青い夕焼けを拝めるのは、分厚いガラス越しの、ほんの一瞬だけかもしれません。


酸素を作り、氷を溶かし、毒を抜き、地下に潜って、原子力の熱で暖を取る。 地球なら「ただそこにいるだけ」で手に入るものが、火星では命がけの作業になります。

「地球って、なんてイージーモードで素晴らしい星なんだろう」 そう思いませんか?

それでも、人類は将来的な火星移住を目指しています。 それは、そこに「行けるかもしれない場所」があるからです。 かつて海を渡った冒険家たちが、嵐や壊血病を乗り越えて新大陸を目指したように。マロリーが、そこに山があるからと言って登ったように。 数百年後、火星の地下都市で暮らす人々は、今の私たちを「無謀な先駆者たち」として歴史の教科書で学ぶことになるのかもしれません。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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