火星と木星の間。 そこには、惑星になりきれなかった無数の岩石がリング状に漂うエリア、「小惑星帯(メインベルト)」があります。
その数、数百万個以上。 SF映画『スター・ウォーズ』などで、宇宙船が岩を右へ左へと華麗に避けて飛ぶシーンを見たことがあるでしょう。 しかし、実際の小惑星帯は、映画とは全く違う景色が広がっています。 今日は、太陽系の「工事現場」に残された、瓦礫たちの真実をお話ししましょう。

誤解:実は「ガラガラ」の安全地帯
まず、最大の誤解を解いておきましょう。 小惑星帯に行けば、四方八方から岩が迫ってくる……なんてことは絶対にありません。
もしあなたが宇宙船で小惑星帯に突っ込んだとしても、岩にぶつかる確率は「宝くじで1等を当てる」よりも遥かに低いです。 なぜなら、宇宙空間があまりにも広大すぎるからです。
小惑星同士の距離は、平均して数百万キロメートル(地球と月の距離の数倍以上)も離れています。 隣の小惑星を見ようとしても、肉眼ではただの遠い星にしか見えません。 NASAの探査機(ボイジャーやパイオニアなど)も、ここを何度も通過していますが、一度も「岩を避ける操作」なんてしたことはありません。 現実は、怖いくらいに静かで、何もない「スカスカの空間」なのです。
起源:なぜ「惑星」になれなかったのか?
では、なぜこの場所にだけ、岩石がまとまらずにバラバラに浮いているのでしょうか? かつてここにあった惑星が爆発した? いいえ、逆です。 「生まれようとしたけれど、生まれることを許されなかった」のです。
犯人は、すぐ外側にいる怪物、「木星」です。
太陽系ができた頃、この場所でも岩石同士がくっついて、一つの大きな惑星になろうとしていました。 しかし、隣に巨大すぎる木星が誕生してしまいました。 木星の強烈な重力が、このエリアの岩石たちをぐちゃぐちゃにかき乱したのです。
「くっつこう!」としても、木星に「ほら、離れろ!」と引っ張られ、衝突スピードが上がりすぎて、合体するどころかお互いに破壊し合ってしまいました。 その結果、惑星になれずに砕け散った破片だけが残されたのです。
ここは、惑星の墓場ではありません。 「幻の第5惑星」になりかけた材料であり、太陽系の建築現場に残されたままの「余った資材」なのです。
注目の天体:女王ケレスと、輝くベスタ
この瓦礫の海には、他の岩塊とは格が違う、2つの巨大な天体が君臨しています。 NASAの探査機「ドーン」が明らかにした、彼らの驚きの素顔を紹介しましょう。
1. 準惑星ケレス(Ceres) 〜謎の「光る点」を持つ水の女王〜
まずは、小惑星帯で唯一「球形」を保っている女王、ケレスです。 彼女は、岩石というよりも「泥と氷」でできています。
探査機がケレスに近づいた時、真っ黒なクレーターの中に、人工的な都市の明かりのような**「強烈に光る点」が見つかり、世界中で大ニュースになりました(UFO基地か?と騒がれました)。 その正体は、地下から噴き出した塩水が乾いて残った「炭酸ナトリウム(塩の結晶)」**でした。太陽光を鏡のように反射していたのです。
また、ケレスには、マグマではなく「塩辛い泥水」を噴き出す「泥の火山(アフナ山)」があります。 小惑星帯にいながら、地下に海を隠し持っているかもしれない……まさに「水の女王」です。
2. 小惑星ベスタ(Vesta) 〜地球に石を飛ばした岩の王子〜
もう一人は、ケレスの隣で輝く、いびつな形のベスタです。 こちらは氷のケレスとは真逆で、カチコチの「溶岩(岩石)」でできています。
しかしベスタはただの岩ではありません。地球と同じように、内部に「金属の核(コア)」と「マントル」を持っています。 あと少し材料が集まれば、地球や火星のような立派な「惑星」になれるはずでした。成長が途中で止まってしまった、悲劇の「原始惑星(プロトプラネット)」なのです。
また、南極には、巨大なクレーターの中にそびえ立つ「レアシルヴィア山」があります。その高さはなんと約22km! エベレストの2倍以上という、太陽系屈指の高さを誇ります。
実は、地球で見つかる隕石の約5%は、このベスタから飛んできたもの(HED隕石)だと分かっています。 かつてベスタに巨大隕石が衝突した際、砕け散った破片が地球まで届いたのです。博物館にある隕石は、この「岩の王子」のかけらかもしれません。
未来:宝の山としての小惑星
かつては「宇宙のゴミ」と思われていた小惑星たちですが、今は「宝の山」として熱い視線が注がれています。
彼らは46億年前の姿をそのまま残した「タイムカプセル」です。 日本の「はやぶさ2」がリュウグウ(※メインベルトではなく地球近傍小惑星ですが)から持ち帰ったサンプルが生命の起源に迫っているように、小惑星には水や有機物、そしてレアメタルが眠っている可能性があります。
遠い未来、人類が宇宙に進出したとき、この小惑星帯は「危険な岩場」ではなく、資源を採掘するための「宇宙の鉱山」として賑わっているかもしれません。
木星の重力にいじめられ、一つになれなかった星たちのかけら。 しかし、惑星になれなかったからこそ、彼らは太陽系が生まれた瞬間の記憶を、傷だらけの身体の中に保存し続けることができました。
何もない広大な空間に、ポツン、ポツンと漂う岩石たち。 それは、私たちがどこから来たのかを教えてくれる、静かな語り部なのです。

参考文献
コメント