みなさん、朝起きたら天気予報を見ますよね? 「今日は雨だから傘を持っていこう」 「台風が来るから家で過ごそう」
実は、空のずっと向こう、宇宙にも「天気」があることをご存じでしょうか。 もちろん、宇宙空間に雲はありませんし、雨も降りません。雨が降る星はありますけどね。

そこで吹き荒れているのは、「電気を帯びたガス(プラズマ)」の風と、「目に見えない磁気」の嵐です。 これを予測するのが「宇宙天気予報(スペース・ウェザー)」。 これまで紹介してきたSOHOやACEといった人工衛星たちは、実はこの「宇宙の気象予報士」たちだったのです。
今日は、私たちの生活と密接に関わっている、知られざる宇宙の天気についてお話ししましょう。

仕組み:太陽風という「そよ風」と「暴風」
宇宙の天気を決めるのは、太陽です。 太陽からは常に、電気の粒を含んだ風が吹き出しています。これを「太陽風(たいようふう)」と呼びます。
- 晴れ(平常時): 穏やかな太陽風が吹いている状態。地球の磁場バリアが守ってくれるので、平和です。
- 嵐(異常時): 太陽の表面で「フレア」という爆発が起きると、「コロナ質量放出(CME)」という巨大なプラズマの塊が飛んできます。 これは、いわば「宇宙の台風」。 これが地球に直撃すると、地球の磁場が激しく揺さぶられ、「磁気嵐(じきあらし)」という大嵐になります。
影響:私たちの生活へのダメージ
「宇宙で嵐が起きても、地上には関係ないでしょ?」 そう思うかもしれません。昔(電気がない時代)はそうでした。 しかし、電気と通信に頼る現代社会において、宇宙天気は最大の脅威なのです。
具体的に何が起きるのでしょうか?
- GPSが狂う(カーナビ・スマホ) 大量の電気の粒が地球の大気(電離圏)を乱すため、GPS衛星からの電波が遅れたり、届かなくなったりします。カーナビが道なき道を走ったり、ドローンの制御が効かなくなったりします。
- 無線が使えなくなる(デリンジャー現象) 短波通信が遮断され、航空機と管制塔の連絡が取れなくなることがあります。飛行機が北極ルート(放射線が強いエリア)を避けて遠回りするため、遅延の原因にもなります。
- 大停電が起きる(一番怖い!) これまでの記事で触れた「磁気嵐」。 磁場が急激に変動すると、地上の送電線に勝手に電気が流れてしまう現象(誘導電流)が起きます。 1989年には、カナダのケベック州で発電所がダウンし、600万人が停電する大事故が起きました。
太陽が大きなくしゃみをすると、地球の電気が消える。 決してSFの話ではないのです。
予報:どうやって予測する?
そこで活躍するのが、前回までにご紹介した**「L1ポイント」の衛星チーム**です。
- 【予報】SOHOやSDOが見る 「お、太陽に大きな黒点ができたぞ。爆発しそうだ」 「爆発した! プラズマの塊(CME)がこっちに向かったぞ!」 → これで「数日後に嵐が来るかも」と分かります。
- 【警報】ACEやDSCOVRが触る 「今、嵐の先端がL1(地球の1時間手前)を通過した! 磁場は南向き(危険)だ!」 → これで「あと1時間で衝撃が来る! 備えろ!」と確定します。
これらのデータは、各国の研究機関や防災機関に送られ、電力会社や航空会社の判断材料として使われています。
日本では、NICT(情報通信研究機構)という機関が、毎日「宇宙天気予報」を発表しています。 「今日の宇宙天気は『活発』です」といった具合に、誰でもWebサイトで見ることができるんですよ。
観測している衛星はこちら

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恩恵:嵐が連れてくる光
怖い話ばかりしましたが、宇宙の嵐がもたらす美しい贈り物もあります。 それが「オーロラ」です。
オーロラは、太陽から飛んできた電気の粒が、地球の大気とぶつかって光る現象です。 つまり、「宇宙天気が大荒れ(磁気嵐)」の時ほど、オーロラは華やかに輝きます。 普段は北極や南極でしか見えませんが、超巨大な磁気嵐が起きると、北海道や、時には本州でも赤いオーロラが見えることがあります。
「今日は磁気嵐だから、GPSは不調かもしれないけど、夜空は綺麗かもしれないね」 そんな会話ができるようになったら、あなたも立派な天文通です。
私たちは地面の上で暮らしていますが、広い意味で見れば、「太陽の大気(ヘリオスフィア)の中で暮らしている」のと同じです。
地球は、太陽からの風を常に受けています。 SOHOやACEといった予報士たちが送ってくれるデータのおかげで、私たちは今日も安心してスマホを使い、電気のある暮らしができているのですね。
もしニュースで「大規模なフレアが発生しました」と聞こえたら、「あ、ACEが忙しくなるな」と思い出してみてください。
参考文献
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