正面からだけじゃ分からない。CMEの予測精度を劇的に上げた「横からの視点」STEREOについて

Image Credit: NASA

SOHOやSDOといった「太陽を見つめる衛星」がいくつか運用されています。 彼らは優秀ですが、ひとつだけ弱点があります。 それは、「片目(地球からの視点)だけで見ていること」です。

片目をつぶって、飛んでくるボールをキャッチしようとしてみてください。 「距離感」がつかめなくて、怖いですよね? 太陽から飛んでくるプラズマの弾丸(CME)も同じです。 「正面から爆発が見えたけど、これが本当に地球にぶつかるコースなのか、それとも後ろへ飛んでいったのか?」 2次元の写真だけでは、それが完全には分からなかったのです。

そこでNASAは考えました。 「じゃあ、離れた場所にもう一台カメラを置けば、人間の目みたいに立体(3D)で見えるんじゃない?」 こうして生まれたのが、双子の衛星STEREOです。


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軌道:地球の軌道を「逃げる」と「追う」

STEREOの配置方法は、非常にユニークです。 2機の衛星(STEREO-AとSTEREO-B)を同時に打ち上げ、それぞれを地球の軌道上に投入しました。

  • STEREO-A (Ahead): 地球より少し内側を回ることでスピードを上げ、地球の「前方」へ進んでいく。
  • STEREO-B (Behind): 地球より少し外側を回ることでスピードを落とし、地球の「後方」へ遅れていく。

こうして、毎年少しずつ地球から離れていき、最終的には、太陽を挟んで地球の反対側に近い位置まで回り込む時期もありました。これにより、人類は史上初めて「太陽の裏側」を含む、太陽の全貌(360度)を同時に監視できるようになったのです。


革命:横から見ると「形」が分かる

STEREOの最大の功績は、CME(太陽嵐)を「横から撮影」したことです。

SOHO(正面)から見ると、CMEは単なる「広がる光の輪(ハロー)」にしか見えません。 しかし、横にいるSTEREOから見ると、それが「太い塊」なのか「薄い膜」なのか、そして「どのくらいのスピードで進んでいるか」が手に取るように分かります。

これにより、CMEが地球に到達する時刻の予測精度が飛躍的に向上しました。 「片目」のSOHOと、「横目」のSTEREO。 この2つの視点を合わせることで、私たちは宇宙空間を飛び交う嵐を3Dモデルとして再現できるようになったのです。


悲劇:失われた片割れ

しかし、このミッションには悲しいドラマがあります。 2014年、打ち上げから8年後のことです。

双子の片割れ、STEREO-B(Behind)との通信が途絶えました。 原因は、システムの再起動テスト中の姿勢制御トラブル。 機体が予期せぬ回転(スピン)を始めてしまい、太陽電池に光が当たらなくなり、バッテリーが干上がってしまったと考えられています。

NASAの運用チームは諦めず、22ヶ月間も呼びかけ続けました。 2016年に一度だけ奇跡的に通信が回復しましたが、姿勢を立て直すには至らず、再び沈黙。 現在、STEREO-Bは宇宙のどこかで眠り続けています。


現在:たった一人の3D視

相棒を失いましたが、もう一機のSTEREO-A(Ahead)は今も元気です。

2023年、STEREO-Aは地球をぐるっと一周して、17年ぶりに地球の近くに戻ってきました。 現在は、SOHOやSDO(地球視点)と連携して、異なる角度からの観測を続けています。

片割れを失っても、その「横からの視点」の重要性は変わりません。 私たちが天気予報で「台風の立体構造」を見られるように、宇宙天気の立体地図を作ってくれたのは、この双子たちの冒険のおかげなのです。


SOHOACEDSCOVRSDO、そしてSTEREO。 これらはすべて、「離れた場所から太陽を見る」衛星でした。

しかし、科学者たちの好奇心は止まりません。 「見るだけじゃ物足りない。太陽の大気の中に飛び込んで、直接サンプルを採りたい」 そんな無茶な願いを叶えるために、人類史上最も過酷なミッションもあります。そんな姿勢を見習っていきたいですね。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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