スマホやGPSを守る「1時間の猶予」。最前線基地ACEが送る警告シグナル

以前、太陽をじっと見つめ続ける衛星「SOHO」のお話をしました。 SOHOはカメラで「あ、太陽からガスが噴き出したぞ!」と教えてくれます。

しかし、それだけでは不十分です。 飛んできたガスの塊(プラズマ)が、「本当に地球に害を与えるものか?」 までは、遠くから見ているだけでは分からないからです。

そこで登場するのが、今回の主役「ACE」です。 彼はSOHOと同じラグランジュポイントL1にいますが、カメラを持っていません。 その代わり、自分自身の体で太陽風を浴びて、その成分や磁場を直接計測する「センサーの塊」なのです。

ACE
Image Credit: NASA

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役割:宇宙の「沖合ブイ」

SOHOとACEの違いは、「津波」で例えると一発で分かります。

  • SOHO(カメラ): 陸地の高い塔から海を見て、「あ、沖の方で波が立ったぞ」と発見する係。
  • ACE(ブイ): 沖合に浮かんでいて、実際に波を被って「うわっ、この波は高さ10メートルもあるぞ!」と計測する係。

ACEの正式名称は「Advanced Composition Explorer(高度成分探査機)」。 その名の通り、飛んできた物質の「成分」や「密度」、「スピード」を精密に分析します。 SOHOが見つけた「怪しい影」の正体を、ACEが体を張って特定する。この二段構えが地球を守っています。


核心:運命の「1時間」

ACE最大の功績は、私たちに「約1時間の猶予」をくれることです。

太陽風(プラズマ)は、光よりもずっと遅い速度(秒速数百キロ)で飛んできます。 L1ポイント(地球から150万km)にいるACEがプラズマの直撃を受けてから、そのプラズマが地球に到達するまで、計算上およそ1時間かかります。

「たった1時間?」と思うかもしれません。 しかし、この1時間は、変電所が電圧を調整したり、衛星を安全モードに切り替えたりするには十分な時間です。 ACEからの信号が途絶えたら、現代社会はいきなり停電のリスクに晒されることになるのです。


重要:地球を開ける「鍵」の話

ACEがチェックしている項目の中で、最も重要なのが「磁場の向き」です。 ここが一番面白いポイントなので、ぜひ覚えて帰ってください。

太陽風は「磁石」の性質を持っています。そして地球も「巨大な磁石」です。 磁石にはN極とS極がありますよね。

  • 太陽風が「北向き(N)」の場合: 地球の磁場(北がS極性質)と反発し合うため、バリアに弾かれて、あまり被害が出ません。
  • 太陽風が「南向き(S)」の場合: ここが最悪です。地球の磁場とガチッと結合してしまい、大量のエネルギーが地球の大気圏になだれ込み、巨大な磁気嵐やオーロラを引き起こします。

ACEは、飛んできたプラズマが「北向き(安全)」か「南向き(危険)」かを、地球に当たる1時間前に判定しているのです。 いわば、「敵が合鍵を持っているかどうか」をチェックしている検問所なんですね。


歴史:1997年生まれのベテラン

ACEが打ち上げられたのは1997年。 なんと、あのSOHOとほぼ同期のベテラン選手です。 設計寿命は5年でしたが、30年近く経った今も現役バリバリでデータを送り続けています。

実は2015年に、後継機である「DSCOVR(ディスカバー)」という最新鋭の衛星が打ち上げられました。 普通ならここで引退……のはずですが、ACEはまだ動くので、引退せずに「ダブル体制」で運用されています。 老兵と新人が並んで地球を守っている。熱い展開ですね。


SOHOの画像はカラフルで有名ですが、ACEのデータは「グラフと数字」だけなので、一般のニュースに出ることはほとんどありません。

でも、あなたのスマホのGPSが狂わないのも、家の電気が消えないのも、L1という最前線でACEが「南向きの磁場、来ました!対策して!」と叫び続けてくれているおかげです。 地味だけど最強の仕事人、それがACEなのです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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