ラグランジュポイントL1には、SOHO、ACEがいます。


彼らは基本的に、常に太陽の方を向いています。太陽風がやってくる方向を見なければならないので、当然ですよね。
しかし、2015年にL1に到着した最新鋭の衛星DSCOVR(ディスカバー)は違いました。 彼は太陽風を受け止めながら、背後もみているのです。
そこには、漆黒の宇宙に浮かぶ、青く輝く地球の姿があります。 DSCOVRは、太陽の監視役でありながら、「L1から地球全体を撮影する」という特別なカメラを持った、唯一の衛星なのです。
L1は地球と太陽の引力が釣り合うため、地球とほぼ同じペースで太陽の周りを回り続けます。だからこそ、地球の“正面”を常に捉えられるのです。

機能1:ACEの正当後継者
DSCOVRの第一の任務は、前回紹介したACEと同じ「太陽風の観測(宇宙天気予報)」です。
ACEは1997年打ち上げのベテラン(おじいちゃん)なので、いつ壊れてもおかしくありません。 その後釜として送り込まれたDSCOVRは、センサーの性能が格段に上がっています。 ACEよりも高精度のデータを、より速く地球に送ることができるため、現代のデジタル社会を守るための「新しい守護神」として期待されています。
本来なら、ACEはここで引退……のはずでしたが、なんとまだ元気なので、現在は「2機体制」で運用されています。贅沢ですね。
機能2:奇跡のカメラ「EPIC」
DSCOVRの最大の特徴。それは「EPIC(エピック)」と呼ばれる地球観測カメラです。
普通の気象衛星(ひまわり等)は、地球のすぐ近くを飛んでいるので、地球の「一部」しか見えません。 しかし、150万km離れたL1にいるDSCOVRからは、「地球の丸い姿(全球)」が常に見えます。
雲の動きやエアロゾル、地球全体の反射率を同時に観測できるという点で、気候変動研究にとっても極めて貴重なデータなのです。
ここで撮影された中で、世界中に衝撃を与えた映像があります。 それは、「地球の手前を、月が横切っていく動画」です。

地球からは絶対に見えない「月の裏側(常に地球から見えない側)」が、太陽の光を浴びて真っ黒に見える……という、SF映画のような光景。 「月の裏側って、こんなにのっぺらぼうだったのか!」 この映像を撮れるのは、地球と月の外側(L1)にいるDSCOVRだけなのです。
歴史:政治に翻弄された「ゴアサット」
さて、ここからがDSCOVRの泣ける話です。 実はこの衛星、構想されたのは1998年。なんとACEとほぼ同時期です。
当時のアメリカ副大統領、アル・ゴア氏(『不都合な真実』で有名ですね)が発案しました。 「宇宙から地球を常に見つめることで、環境問題への意識を高めたい」 その夢を乗せて開発され、名前も「トリアナ」と名付けられ、完成目前でした。
しかし、大統領選でブッシュ政権に変わると、風向きが一変します。 「科学的な意味が薄い」「ゴアの個人的な夢に税金を使うな」と批判され、計画は凍結。 完成していた衛星は、窒素ガスが充填された箱に入れられ、メリーランド州の倉庫の奥で保管(放置)されることになったのです。
復活:15年越しの目覚め
時が流れ、2010年代。 L1で頑張っていたACEがいよいよ老朽化し、「このままだと宇宙天気予報がなくなる!」という危機が訪れました。 「新しい衛星を作る予算はない。どうする?」
NASAの技術者たちは思い出しました。 「そういえば、倉庫に新品同様のやつが眠ってないか?」
倉庫から引っ張り出されたトリアナ。 10年以上も放置されていたにもかかわらず、状態は驚くほど良好でした。 名前を「DSCOVR」と改め、フィルターやセンサーを再調整し、ついに2015年、スペースX社のファルコン9ロケットに乗って宇宙へ旅立ったのです。
構想から17年。 深い眠りから覚めた「元・お払い箱」の衛星は今、L1ポイントから毎日、美しい地球の写真を送り続けています。
DSCOVR(Deep Space Climate Observatory)、その名の通り、深宇宙から気候を見守る観測所です。
彼は背中で太陽の嵐を受け止めながら、目では美しい故郷(地球)を見つめ続けています。 その姿はまるで、 「あの青い星を絶対に守ってみせる」 と誓っているようにも見えませんか?
SOHO、ACE、そしてDSCOVR。 数奇な運命を辿った3機の衛星たちが、今日もL1で私たちを守っているのです。

参考文献
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