設計寿命90日、稼働5000日。火星の砂嵐と戦った探査車「オポチュニティ」の伝説

NASAは「ソジャーナ」の成功を受け、2004年、より大型で高性能な探査車を2台、火星に送り込みました。

双子のローバー、「スピリット(Spirit)」「オポチュニティ(Opportunity)」です。

2004年に火星に到着した探査車Spiritの外観
Image Credit: NASA/JPL-Caltech

彼らに与えられたミッション期間は「90日間(約3ヶ月)」。 過酷な火星環境では、それくらい持てば御の字だと考えられていました。

しかし、結果はどうだったでしょう? スピリットは6年間。 オポチュニティに至っては、なんと15年もの間、火星を走り続けました。 「3ヶ月の短期バイトで入ったのに、気づいたら15年勤続して重役になっていた」ようなものです。 なぜ彼らは、これほどの長寿を誇ることができたのでしょうか?


目次

技術革新:充電できる喜び

先代ソジャーナとの最大の違いは、電源システムです。 彼らは、火星探査車として初めて「リチウムイオン二次電池(充電可能な電池)」を本格的に採用しました。

  • 昼: 太陽電池パネル(翼のような形状)で発電し、走行しながらバッテリーに充電。
  • 夜: バッテリーの電力を使ってヒーターを動かし、電子回路が凍死するのを防ぐ。

この「充放電サイクル」を確立したことで、彼らは氷点下100℃にもなる火星の夜を何千回も乗り越えることができました。 まさに、現代のEV(電気自動車)やスマートフォンと同じような電池が、20年前の火星で実証されていたのです。


奇跡:神風(クリーニング・イベント)

しかし、彼らには「太陽電池パネル」ゆえの弱点がありました。 「砂ぼこり」です。

火星には常にチリが舞っており、数ヶ月もすればパネルの上に砂が積もって発電できなくなります。 「90日寿命」というのは、実は「砂が積もって電力が尽きるまでの期間」でもあったのです。

ところが、奇跡が起きました。 発電量が落ちて弱っていたある日、突然、電圧がV字回復したのです。 原因は「つむじ風(ダスト・デビル)」でした。 たまたま通りかかったつむじ風が、ワイパーのようにパネルの上の砂をきれいに吹き飛ばしてくれたのです。

これをNASAは「クリーニング・イベント」と呼びました。 何度もこの「神風」に助けられ、彼らは延命に延命を重ねました。


最期:全米を泣かせた最後の言葉

しかし、別れの時は必ず来ます。

スピリット(2010年終了): 砂地にタイヤを取られてスタック(立ち往生)。 脱出できないまま冬を迎え、太陽電池を太陽に向けられなくなり、電力不足で通信途絶。

オポチュニティ(2018年終了): 火星全体を覆う、歴史的な巨大砂嵐(グローバル・ストーム)が発生。 昼間でも夜のように真っ暗になり、太陽光が完全に遮断されました。

発電量はほぼゼロ。バッテリー残量はみるみる減っていきます。 ヒーターを動かせなくなれば、回路が凍って終わりです。 最後の力を振り絞り、彼が地球に送ったデータ(ステータス)を人間の言葉に翻訳すると、こうなります。

“My battery is low and it’s getting dark.” (バッテリーが少なくなってきました。そして、外はすごく暗いです。)

これを最後に、オポチュニティからの信号は途絶えました。 嵐が去った後、NASAは1000回以上呼びかけましたが、彼が目覚めることはありませんでした。 冷え切ったバッテリーは、もう再起動の電圧を残していなかったのです。


90日の予定を15年に伸ばした彼らの功績は計り知れません。 「火星にかつて水があった」という決定的な証拠を見つけたのも彼らです。

しかし、彼らの死は一つの教訓を残しました。 「太陽電池は、砂嵐が来たら死んでしまう」

この教訓は、次の世代のローバー「キュリオシティ」に活かされることになります。 「もう砂嵐には負けない。太陽がなくても動ける心臓を持とう」 次回は、原子力電池(RTG)という最強の心臓を手に入れた、巨大ローバーのお話です。

参考文献


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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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