火星のCO2から酸素を作れ! 探査車パーサヴィアランスに搭載された実験装置「MOXIE」

2021年、火星のジェゼロ・クレーターに降り立った最新ローバー「パーサヴィアランス」。 彼の写真を見て、「あれ? キュリオシティと同じじゃない?」と思った方も多いでしょう。

MOXIE(火星酸素生成実験装置)を搭載した火星探査車パーサヴィアランスの外観
Image Credit: NASA/JPL-Caltech

無理もありません。設計図の90%はキュリオシティの流用です。 しかし、残りの10%にこそ、NASAの「本気」が詰まっています。

キュリオシティの目的が「住める環境だったか調べる(居住可能性)」だったのに対し、 パーサヴィアランスの目的はズバリ、「かつていた生命の痕跡を見つける(生命探査)」こと。 そのために、彼は「走る実験室」から「走るサンプル採取工場」へと進化を遂げました。


目次

進化1:タイヤの溝(教訓の反映)

まず、外見で一番違うのが「足元」です。 先代キュリオシティは、鋭利な岩を踏みすぎて、アルミ製のホイールにボロボロの穴が開いてしまいました。

その反省から、パーサヴィアランスのタイヤは改良されています。

  • 溝の形: 「くの字」のパターンから、緩やかなウェーブに変更。
  • 厚み: アルミを厚くし、耐久性を大幅アップ。
  • サイズ: 直径をわずかに大きく。

「失敗を次の設計に即座に活かす」。エンジニアリングの基本が、このタイヤの溝一つに表れています。


進化2:火星で酸素を作る「MOXIE」

ここが今回の目玉、電気化学(Electrochemistry)の時間です。 パーサヴィアランスは、将来人間が火星に行くための準備として、とんでもない実験装置を積んでいます。 その名も「MOXIE」。

何をする装置か? 「火星の大気(96%が二酸化炭素)」を吸い込んで、「酸素」を吐き出す装置です。

その仕組みは、「固体酸化物型電解セル(SOEC)」です。MOXIEが使っているSOECは、「二酸化炭素から酸素だけを引き剥がす、高温で動く電気分解装置」です。地球では研究室や工場で扱うような繊細な技術を、火星の極寒と粉塵の中で動かす――それ自体が、ほとんど実験室ごと火星に送ったようなものです。

パーサヴィアランスはこの実験に見事に成功し、火星で「木一本が生成する酸素量」を作ることに成功しました。 これは、将来のロケットの燃料(酸化剤)や、宇宙飛行士の呼吸用空気を「現地調達」できることを証明した、歴史的な快挙です。

この快挙には、いろいろな苦労があったはずです。
なぜSOECを火星で動かすのは「無茶」なのか?

  • 割れやすさ:SOECはセラミックス製です。衝撃や熱応力に弱く、地上の燃料電池ですら扱いに苦労します。燃料電池自動車の開発でも、長年の課題となってきました。これをロケットの激しい振動に耐えて火星に送り、無事着地させることは途方も無い努力、工夫があったと予想されます。
  • 温度ギャップ:SOECは高温、600℃から800℃のような温度域で動作します。地球上でも雪国での動作に一苦労していますが、それを外気温マイナス60℃の火星で動作させることはかなり困難だったと推測されます。
  • 不純物耐性:SOECは不純物に弱いので、粉塵の多い火星の大気を吸い込んで使うのは困難です。

実は私、昔このMOXIEと同じ仕組み(SOEC)を使った電池の研究をしていました。 だからこそ分かります。割れやすいセラミックスを、振動に耐えさせ、極寒の火星で800℃まで加熱し、制御する。これは「工夫した」では済まない仕事です。

正直に言って、NASAは変態(最大級の賛辞)です。


ミッション:未来へのバトン

そして、彼にはもう一つ、究極の任務があります。 「サンプル・リターン(持ち帰り)」の準備です。

彼は面白い石を見つけると、チョークくらいの大きさの「チタン製チューブ」に封入し、なんと地面にポイッと落としていきます。 「えっ、捨てちゃうの?」と思いますよね。

違うんです。これは「置き配」です。 2030年代にやってくる次の探査機(MSR計画)が、彼が落としていったチューブを拾い集め、ロケットに乗せて地球へ持ち帰る計画なのです。 今、火星の表面には、彼が命がけで集めた「地球へのギフト」が点々と並べられています。


相棒:空飛ぶ相棒インジェニュイティ

忘れてはいけないのが、彼のお腹にくっついてやってきた小さな相棒。 火星ヘリコプター「インジェニュイティ」です。

これについては……あまりに革命的すぎるので、他の記事で詳しくお話ししましょう。 「リチウムイオン電池の限界に挑んだ、空飛ぶドローン」の物語です。


パーサヴィアランスは「未来のチーム」の先発隊です。 酸素を作り、サンプルをパッキングし、次の人類の来訪を待っています。

彼が地面に残した轍(わだち)とサンプルチューブ。 それは、私たちが火星に住む未来への「道しるべ」そのものなのです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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