土星の周りには、なんと140個以上もの衛星が見つかっています。 その中でも、NASAの科学者たちが「もしかすると、ここには生命がいるかもしれない」と真剣に議論している、極めて特別な2つの月があります。
一つは、不気味なほど地球に似た環境を持つ巨大衛星「タイタン」。 もう一つは、純白に輝く小さな衛星「エンケラドゥス」です。
今日は、太陽系でも屈指のミステリースポットである、この二つの世界へご案内しましょう。

タイタン(Titan) 〜オレンジ色の霧に包まれた世界〜
まず紹介するのは、土星最大の衛星「タイタン」です。 水星よりも大きく、衛星のなかではガニメデに次ぐ太陽系No.2の大きさを誇ります。
タイタンの最大の特徴は、「分厚い大気」を持っていることです。 月や水星には空気がないのに、タイタンの地表気圧はなんと地球の1.5倍。 しかも、成分のほとんどが地球と同じ「窒素(ちっそ)」です。
もしタイタンの地表に立てたら、宇宙服の加圧機能はいりません。酸素マスクと防寒着さえあれば、生身で歩けるかもしれないのです。 空を見上げると、分厚いオレンジ色のスモッグ(霧)が空を覆い、昼間でも薄暗い夕暮れのような景色が広がっています。
さらに驚くべきことに、タイタンには「天気」があります。 雲が湧き、雨が降り、川が流れ、巨大な湖まであります。
「地球そっくりじゃん!」 と思いますが、決定的な違いが一つ。 そこに流れているのは水ではなく、液体の「メタン(天然ガス)」です。
気温マイナス180度という極寒の世界では、水はカチコチの岩のように凍りつき、代わりにメタンが液体のままで循環しているのです。 2005年、探査機ホイヘンスが着陸した際、丸く削られた氷の石が転がる河原の写真を送ってきました。 それは、地球の景色と不気味なほど似ていながら、成分が全く違う「異界の光景」でした。
エンケラドゥス(Enceladus) 〜宇宙へ水を撒く星〜
次に紹介するのは、直径わずか500kmほどの小さな衛星「エンケラドゥス」です。 タイタンが「オレンジ色の巨星」なら、こちらは「純白の宝石」です。
この星の表面は真っ白な氷で覆われていますが、南極付近に「タイガーストライプ(虎の縞模様)」と呼ばれる青いひび割れがあります。
そこから、なんと水蒸気と氷の粒が宇宙空間へ向かって激しく噴き出しているのです。 まるで巨大なスプリンクラーのように。 噴き出した氷の粒の一部は、土星の周りに広がり、美しいリング(Eリング)の材料になっています。
なぜ水を噴き出すのか? それは、エウロパと同じく、氷の下に広大な「地下海」があるからです。
探査機カッシーニが、この噴き出す水蒸気の中に突っ込んで成分を分析したところ、塩分や有機物、そして岩石と熱水が反応してできる成分が見つかりました。 これは、海底に熱水噴出孔がある証拠。 つまり、エンケラドゥスの海は、生命誕生に必要な「熱」と「栄養」がたっぷり溶け込んだ「温かいスープ」のような状態かもしれないのです。
メタンの雨が降り注ぐタイタン。 地下から海水を宇宙へ撒き散らすエンケラドゥス。
土星の月たちは、私たちが地球で培った「メタンは気体」「海は地表にあるもの」といった常識を、軽々と飛び越えていきます。 夜空のあの小さな光の点の向こうには、まだまだ私たちの想像を超えた世界が広がっている。 そう思うと、いつもの夜空が、無限の可能性を秘めた冒険の海に見えてきませんか?


参考文献
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