ラグランジュポイントL1に、もう30年近くも居座り続けている「主(ぬし)」のような探査機がいます。 その名は、SOHO(ソーホー)。 ESA(欧州宇宙機関)とNASAが協力して打ち上げた、太陽観測衛星のレジェンドです。1995年に打ち上げられ、2025年現在で約30年近く稼働を続けています。
ニュースやネットで、太陽の画像を見たことはありませんか? 青や赤の背景で、真ん中の太陽だけが黒い円盤で隠されている……あの不思議な写真。 あれを撮影しているのが、このSOHOです。

今日は、当初の予定を遥かに超えて働き続ける不屈の衛星、SOHOの物語をご紹介します。
機能:宇宙で「日食」を作る
SOHOの最大の特徴は、「LASCO(ラスコ)」と呼ばれる特殊なカメラ(コロナグラフ)です。
皆既日食の時、太陽が月に隠れると、周りにボワーッと白い光(コロナ)が見えますよね? あのコロナを見るためには、眩しすぎる太陽本体を隠さなければなりません。
SOHOは、カメラの中に「太陽を隠すための遮蔽板」を持っています。 つまり、24時間365日、人工的に「皆既日食」を作り続けているのです。
- LASCO C2(赤色の画像): 太陽に近いコロナを見ます。
- LASCO C3(青色の画像): より広い範囲(太陽直径の30倍以上)を見ます。
これにより、太陽からガスが噴き出す瞬間(CME)を、くっきりと捉えることができるのです。これらの色は、実際に人間の目で見える色ではなく、観測データを分かりやすく可視化した「疑似カラー」です。
役割:太陽の「くしゃみ」を見る
L1には「早期警報」の役割があります。

SOHOの仕事は、警報の中でも「一番最初の目撃者」になることです。 太陽表面で爆発が起き、プラズマの塊(CME)が宇宙空間へ発射された瞬間、SOHOはそれを「見た!」と捉えます。
- SOHO(目視): 「あ! 今、太陽からプラズマが発射されたぞ! 地球に向かうコースだ!」(到着まで数日)
- ACE/DSCOVR(接触): 「うわっ! さっきのプラズマが今ここ(L1)を通過した! あと1時間で地球に着くぞ!」
このように、SOHOが「発射」を目撃し、後続の衛星が「到達」を感知する。 この連携プレーによって、私たちは宇宙天気予報を受け取ることができているのです。
副業:最強のコメットハンター
ここで、SOHOに関する面白いトリビアを一つ。 実はSOHOは、「人類史上、最も多くの彗星を発見した観測機」でもあります。 その数、なんと5000個以上。
なぜ太陽の観測機が彗星を? 理由はシンプルで、「太陽スレスレを飛ぶ彗星(サングレーザー)」がめちゃくちゃ多いからです。
普通の望遠鏡では、太陽が眩しすぎて、その近くを飛ぶ小さな彗星なんて見えません。 しかしSOHOは「太陽を隠して見る」のが専門です。 そのため、太陽に飛び込んで消滅していく彗星たちが、SOHOの画像にはバッチリ写り込んでしまうのです。
「太陽を見ていただけなのに、気づいたら彗星発見数で世界一になっていた」。 なんとも優秀すぎる副産物ですね。
伝説:死の淵からの生還
SOHOを語る上で外せないのが、1998年の「行方不明事件」です。
打ち上げから3年後、操作ミスが原因でSOHOの姿勢が崩れ、太陽電池に光が当たらなくなり、通信が完全に途絶えてしまいました。 極寒の宇宙で凍りつき、誰もが「もう終わった」と諦めかけました。
しかし、技術者たちは諦めませんでした。 計算を重ね、数週間後に太陽光が当たる角度になる一瞬を狙って電波を送り続け……なんと数ヶ月ぶりにSOHOを目覚めさせることに成功したのです!
バッテリーは干上がり、燃料も凍りついていましたが、時間をかけて解凍し、奇跡の復活を遂げました。 それから25年以上。 一度死にかけた衛星は、今も元気にL1で写真を撮り続けています。
当初の設計寿命は2年でした。 それがもう30年近く動いています。
私たちがスマホやGPSを安心して使えるのも、L1という最前線で、この不屈の老兵が太陽を睨み続けてくれているおかげかもしれません。 NASAのサイトでは、SOHOが撮った「今の太陽(Real-time image)」を誰でも見ることができます。 たまには、青や赤の太陽を眺めて、L1にいる彼に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


参考文献
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