着陸方法は「運任せのボール」? 衝撃のエアバッグ着陸と、小さな冒険者ソジャーナ

2026年現在、火星にはキュリオシティのような「軽自動車サイズ」の巨大ローバーが走り回っていますが、その道を開いた「最初の一台」をご存知でしょうか?

1997年。NASAが送り込んだ「マーズ・パスファインダー」です。 彼が連れて行ったのは、電子レンジほどの大きさしかない小さな探査車、「ソジャーナ(Sojourner)」。

Sojournerの外観
Image Credit: NASA/JPL

予算不足、技術的困難、そして「火星探査は失敗する」というジンクス。 それらを全て跳ね返し、人類が初めて「火星の石」にタイヤを乗り上げた瞬間。 それは、惑星探査の歴史が変わった瞬間でした。


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着陸:常識外れの「スーパーボール」作戦

パスファインダーの最大の特徴は、その豪快すぎる着陸方法です。

通常、繊細な精密機械を着陸させるには、逆噴射ロケットで静かに降りますよね? しかし、予算を抑えるためにNASAが採用したのは、「巨大なエアバッグで包んで、そのまま地面に叩きつける」という方法でした。

  1. パラシュートで減速。
  2. 地面の直前で、探査機全体を風船(エアバッグ)で包み込む。
  3. ドーン! と衝突し、火星の表面をボールのようにボヨンボヨンとバウンドする(15回以上跳ねたそうです)。
  4. 転がりが止まったら、空気を抜いて、花が咲くようにパカッと開く。

「壊れないの?」と心配になりますが、見事に成功しました。 この成功が、「安くても宇宙探査はできる(Faster, Better, Cheaper)」というNASAの新しい時代を切り開いたのです。


機体:6輪の「電子レンジ」ソジャーナ

着陸機(親機)からスロープを降りて発進したのが、探査車(子機)の「ソジャーナ」です。

  • サイズ: 幅48cm、高さ30cm。本当に電子レンジやラジコンカーくらいの大きさです。
  • 足回り: 現在の最新ローバーにも採用されている「ロッカー・ボギー懸架装置」という6輪のサスペンションを火星で初めて実用化・実証しました。これにより、自分のタイヤより大きな岩でも乗り越えることができました。

最高時速は約0.04km(カタツムリより遅い)。 それでも、彼は岩に近づき、成分を分析し、地球に「火星の地質のデータ」を送り続けました。


電源:まだ「充電」ができなかった時代

ソジャーナの電源システムは、現代のローバーとは大きく異なっていました。

  • メイン電源: 太陽電池(ピーク時で約16W)。
  • バッテリー: 「一次電池(使い捨て)」の塩化チオニルリチウム電池(Li-SOCl2)。

そう、実はソジャーナは「充電式バッテリー(二次電池)」を積んでいなかったのです。 搭載していた一次電池は、主に夜間の保温や緊急用に使われましたが、一度使い切ったらそれでおしまい。 バッテリーが切れた後は、「お日様が出ている昼間しか動けない」という制約の中で活動しました。

「昼間に発電して充電し、夜も活動する」という現代の当たり前のシステムは、次の世代(スピリット・オポチュニティ)でリチウムイオン電池が採用されるまで待たなければなりませんでした。 ソジャーナは、まさに「太陽と共に起き、太陽と共に眠る」探査車だったのです。


当初の予定寿命は「7日間」でしたが、ソジャーナは83日間も動き続けました。 最後は、親機(パスファインダー)の故障により通信が途絶えましたが、彼らは今も、火星のアレス渓谷で仲良く眠っています。

「小さくても、火星は走れる」 ソジャーナが残したこの事実は、NASAに大きな自信を与えました。 「次はもっと大きくしよう。そして、充電池を積んで、もっと遠くまで行こう」

こうして、伝説の双子ローバー「スピリット」と「オポチュニティ」が生まれることになるのです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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