私たちは普段、太陽を「ポカポカと暖かい、変わらない恵みの星」だと思っています。
しかし、特殊なフィルター(SDOなど)を通して見ると、その顔は全く違います。 表面は常に沸騰し、磁力線が複雑に絡み合い、時折、想像を絶する大爆発を起こしているのです。
この爆発現象を「太陽フレア」、そしてそれに伴って発生する宇宙の嵐を「太陽嵐(ソーラー・ストーム)」と呼びます。 今回は、この嵐がどのように発生し、どのように地球を襲うのか。そのメカニズムに迫ります。

発生源:ねじれた磁力のゴムバンド
すべての始まりは、太陽の表面にある「黒点(こくてん)」です。 黒点は、ただ黒いシミではありません。あそこは「強力な磁石の吹き出し口」なのです。
太陽はガスでできているため、場所によって自転のスピードが違います(赤道は速く、極は遅い)。 すると、南北に走っていた磁力線が、だんだん横に引き伸ばされ、ねじれていきます。 限界までねじれたゴムバンドのような状態。これが黒点付近の磁力線です。
そして、ある限界を超えた瞬間。 「バチン!」 と磁力線がちぎれてつなぎ替わる現象が起きます。 これを「磁気リコネクション」と呼びます。
この瞬間、蓄えられていた膨大な磁気エネルギーが、一気に熱や運動エネルギーとして解放されます。 これが太陽フレア(爆発)の正体です。 電気回路で言えば、巨大な「ショート(短絡)」が起きて、スパークした状態に近いですね。
しばしば「1億個の水爆に相当するエネルギー」と表現されますが、もちろん核爆発が起きているわけではなく、磁気エネルギーの解放です。
第1の攻撃:ソーラーフレア(閃光)
爆発が起きると、まず飛んでくるのが「光(電磁波)」です。 X線や強い紫外線が、光の速さ(8分19秒)で地球に到達します。
- 特徴: 爆発した瞬間に届く。逃げる時間はない。
- 影響: 地球の空の高いところ(電離圏)を乱します。
- 被害: 「デリンジャー現象」と呼ばれ、無線通信やラジオが繋がらなくなります。
これは「ジャブ」のようなものです。物理的な破壊力はありませんが、通信を麻痺させます。
第2の攻撃:コロナ質量放出(質量の塊)
本当に怖いのは、少し遅れてやってくる「右ストレート」の方です。 爆発の衝撃で、太陽のガス(プラズマ)そのものが宇宙空間に引きちぎられて飛んでいく現象。 これを「コロナ質量放出(CME)」と呼びます。
- 特徴: 重たい物質(陽子や電子)の塊。足が遅く、到着まで数日かかる。
- 影響: 地球の磁場(バリア)に激突し、バリアを変形させる。
- 被害: これが「磁気嵐」の主犯です。
「フレア」は光、「CME」は物質。 この2つはセットで起きることが多いですが、別物であることを覚えておくと、ニュースが分かりやすくなります。
歴史:1859年の恐怖
「昔は電気なんてなかったから平気だったんでしょ?」 そうとも限りません。 記録に残る人類史上最大の太陽嵐として有名なのが、1859年の「キャリントン・イベント」です。
当時、まだスマホも送電網もありませんでしたが、「電信(テレグラフ)」は普及していました。 この時、あまりに強力な磁気嵐が起きたため、誘導電流によって電信線に勝手に電気が流れ、電信技師が感電したり、装置から火花が散って紙が燃えたりしたという記録が残っています。 夜には、ハワイやキューバといった南国でも、新聞が読めるほど明るいオーロラが輝いたそうです。
もし、現代にこれと同じ規模の嵐が来たら……? 被害額は数兆ドル、復旧には数年かかると試算されています。
太陽は、ただ燃えている焚き火ではなく、複雑な磁場が暴れまわる核融合炉です。
「黒点がこっちを向いている」 それは、銃口が地球を向いているのと同じことかもしれません。 しかし、怖がる必要はありません。SDOやSOHOといった衛星たちが、24時間体制でその銃口を見張り、「撃ったぞ!」と知らせてくれているからです。


参考文献
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