太陽電池は役に立たない。深宇宙で50年発電し続ける「RTG(原子力電池)」の仕組み

これまで打ち上げられた探査機の多くは、いつか任務を終えて壊れるか、あるいは地球に帰還するものでした。 しかし、この探査機だけは違います。

1977年に打ち上げられた双子の探査機、「ボイジャー1号・2号」。 彼らは、太陽系の惑星たちに挨拶をしながら、人類の作った物体として初めて「太陽系圏外(星間空間)」へと飛び出しました。

彼らはもう二度と帰ってきません。 打ち上げから約50年。今もなお、地球と通信を続けながら、漆黒の闇の中を太陽に対して時速6万キロで進み続けています。 その心臓部には、太陽の光が届かない場所でも動き続ける、ある「特別な電池」が積まれていました。

ボイジャー1号
Image Credit: NASA/JPL-Caltech

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176年に一度の「グランドツアー」

なぜボイジャーは、これほど遠くまで行けたのか? それは、彼らが「176年に一度」という奇跡的なタイミングで地球を飛び立ったからです。

当時、木星・土星・天王星・海王星が、太陽の周りで綺麗に弧を描いて並ぶ配置になっていました。 この配置を利用すると、惑星の重力を次々と利用して加速する「スイングバイ」を連続で行うことができ、通常なら数十年かかる海王星までの旅を、わずか12年で達成できるのです。

NASAはこの千載一遇のチャンス(グランドツアー計画)を逃しませんでした。 「今行かなければ、次は176年後だ」 その決断が、教科書に載っているあの美しい惑星たちの写真を私たちに残してくれたのです。

別々の道をゆく双子

ボイジャー1号と2号は、全く同じ性能を持った双子ですが、選んだ道は対照的でした。

兄の1号は、土星の衛星「タイタン」を詳しく調べるために、惑星巡りの旅を途中で切り上げ、太陽系の「上方向」へと急上昇して飛び去りました。 誰よりも早く、誰よりも遠くへ行く道を選んだのです。

一方、弟の2号は、兄が見送った「天王星」と「海王星」を目指しました。 12年かけて4つの巨大惑星すべてを訪問するという、完全なる「グランドツアー」を成し遂げたのは、歴史上でボイジャー2号ただ一機だけです。

そして全ての任務を終えた2号は、1号とは逆に、太陽系の「下方向」へと舵を切りました。

今、二つの探査機は、太陽系を挟んで「北」と「南」へ。 お互いに二度と会うことのない方向に背を向け合いながら、それぞれの星の海を開拓しているのです。


熱を電気に変える「魔法瓶」

さて、ここからが技術的な核心です。 木星より遠くへ行くと、太陽光は弱すぎて使い物になりません。 そこでボイジャーには、ソーラーパネルの代わりに「RTG(放射性同位体熱電気転換器)」という原子力電池が搭載されています。

「原子力」と言っても、原子力発電のような核分裂反応ではありません。 仕組みはシンプルです。

  • 熱源: プルトニウム238が自然崩壊するときに出す「崩壊熱」を利用します。
  • 発電: その熱を、「ゼーベック効果」(温度差があると電気が流れる現象)を利用して電気に変えます。

いわば、「超高性能な熱電対(ねつでんつい)がついた、熱々の魔法瓶」です。 可動部品がないため故障しにくく、非常に長期間、安定して熱を出し続けます。 この熱があったからこそ、ボイジャーは絶対零度に近い宇宙空間でも凍えることなく、50年も生き延びてこられたのです。


命のトリアージ

しかし、その魔法の電池にも寿命はあります。 プルトニウムの崩壊とともに、発電能力は毎年すこしずつ低下しています。

現在、ボイジャーの電力はカツカツです。 NASAのエンジニアたちは、探査機を生かすために、心を鬼にして「命の選択(トリアージ)」を行っています。

  • カメラの電源を切る(もう撮るものがないから)
  • ヒーターを切る(凍結のリスクを承知で)
  • 観測機器を一つずつ停止させる

「あと1年、あと1ヶ月でも長く」 今、ボイジャーは手足を動かすエネルギーを削り、地球に声を届けるためだけの存在となって、最後の旅を続けています。 その通信も、2030年頃には完全に途絶えると言われています。


宇宙人への手紙

ボイジャーには、もう一つ有名な荷物が積まれています。 「ゴールデンレコード」です。

もし、数億年後にどこかの知的生命体がボイジャーを拾ったら? そのときのために、地球の波の音、動物の声、55の言語での挨拶、そして音楽が収録された金色のレコード盤が取り付けられています。 日本語の挨拶も入っています。「こんにちは、お元気ですか?」と。

人類が滅びた後も、このレコードだけは宇宙を漂い続けるでしょう。 これは、私たち人類が生きていた証(遺言)でもあるのです。


淡い青色の点

1990年、ボイジャー1号はカメラの電源を切る直前、最後に一度だけ振り返って地球を撮影しました。 それが有名な写真「ペイル・ブルー・ドット(淡い青色の点)」です。

広大な宇宙の闇の中に浮かぶ、ホコリのような小さな青い点。 そこに、私たちが知っている全ての歴史、全ての人間の営みがあります。

ボイジャーは今、その青い点すら見えないほどの彼方にいます。 ボイジャーは、人類が宇宙へ放った中で、最も遠くへ行った、最も孤独で勇敢な冒険者です。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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