宇宙からの搬送。史上初の「医療退避」と、4人の飛行士が地球を目指す理由。

みなさんは今、空の向こうで起きている「ある出来事」をご存知でしょうか?

実は今、この瞬間も、4人の宇宙飛行士を乗せた船が、国際宇宙ステーション(ISS)を離れ、私たちの住む地球へと向かって「落ちて」きています。

それは、ISSの25年以上の歴史の中で初めてとなる、「医療的な理由による緊急帰還(Medical Evacuation)」です。

今日は、今まさに進行中のこのミッションについて、そしてなぜ彼らが予定を早めて帰らなければならなかったのかについて、少しだけお話しさせてください。

ISS外観
Image Credit: NASA
目次

史上初の「宇宙の救急搬送」とは?

日本時間の今朝(1月15日)7時20分頃、野口聡一さんや星出彰彦さんも搭乗したことのある宇宙船「クルー・ドラゴン(愛称:エンデバー)」が、ISSから分離(アンドッキング)しました。

乗っているのは、NASAのゼナ・カードマン船長、マイク・フィンク操縦士、ロシアのオレグ・プラトノフ飛行士、そして日本のJAXA、油井亀美也飛行士ら「Crew-11」の4名です。

本来なら、彼らはあと1ヶ月ほど宇宙に滞在し、2月下旬に帰ってくる予定でした。 しかし、NASAは「クルーの1人に医学的な懸念が生じた」として、ミッションを短縮し、全員を地球へ戻すことを決断しました。

サイレンの鳴らない救急車

「医療搬送」と聞くと、サイレンを鳴らして病院へ急ぐ救急車をイメージしますよね。 でも、宇宙には空気がないので、サイレンは鳴りません。

今回の帰還は、一刻を争うような緊急事態(Emergency)ではなく、「管理された早期帰還(Controlled Medical Evacuation)」だと説明されています。 該当の飛行士は容体も安定しているとのこと。

それでも、「宇宙で治せないなら、地上へ連れて帰るしかない」という判断は、非常に重く、そして勇気のいる決断だったはずです。

なぜ、「宇宙の病院」じゃダメなの?

「ISSにはお医者さんはいないの?」 「薬や手術道具はないの?」

そう思う方もいるかもしれません。実は、ISSには基本的な医療キットがあり、飛行士たちも高度な救急訓練を受けています。地上の医師(フライトサージョン)と常時通信して、遠隔診療も可能です。

しかし、ISSはいわば「設備の整ったキャンプ場」のようなもの。 絆創膏や痛み止め、超音波検査機くらいはあっても、CTスキャンもなければ、手術室もありません。

また、宇宙空間特有の「無重力」が、病気の診断や治療を難しくします。 血液や体液の動きが地上とは異なるため、地上の常識が通じないこともあるのです。

なにより、地球には「重力」があります。 私たちの体は、重力がある環境でこそ正しく機能するようにできています。 精密な検査をし、最善の治療を受けるためには、重力のある「地上の病院」へ戻ることが、最も確実な選択肢なのです。

命がけの「下山」

ISSからの帰還 着水の場面
Image Credit: NASA/Keegan Barber

今、彼らが挑んでいる帰還の旅は、決して「安楽な搬送」ではありません。

山頂で怪我をした人を担いで下山するのが大変なように、高度400kmからの「下山」は過酷です。 時速28,000kmという猛スピードで大気圏に突入し、カプセルの外側は数千度の炎に包まれます。

中の飛行士には、自分の体重の何倍もの重力(G)がかかります。 体調が万全でない飛行士にとって、この帰還プロセス自体が大きな負担になる可能性があります。それでも、NASAとスペースXは「宇宙に留まるリスク」よりも「帰還するリスク」の方が低いと判断しました。

「一人が体調不良なら、その人だけ先に帰せばいいのでは?」

そう思うかもしれません。でも、現在ISSにドッキングしている宇宙船(クルー・ドラゴン)は、彼ら4人のための「唯一の脱出ボート」です。 もし誰か一人を乗せて船を返してしまったら、残された3人は帰る手段を失ってしまいます。

だから、彼らは「4人一緒」に帰ります。 仲間の一大事に、チーム全員で寄り添って地球へ帰る。これぞまさに「運命共同体」。 少し切なくもありますが、宇宙飛行士たちの強い絆を感じずにはいられません。

まとめ:今夜、西の空に祈りを込めて

着水(スプラッシュダウン)は、日本時間の今日(15日)夕方から夜にかけて、カリフォルニア沖で行われる予定です。

もし今夜、晴れていたら、少しだけ西の空を見上げてみてください。 そこには、私たちと同じように、懸命に命を守ろうとしている人たちがいます。

宇宙は美しく、ロマンチックな場所ですが、同時にとても厳しい場所でもあります。 だからこそ、そこへ挑む人々の勇気と、彼らを無事に帰そうとする地上のチームの努力に、私は胸が熱くなるのです。

4人の飛行士が、無事に、そして元気に、青い地球の風を感じられますように。 温かいミルクティーを飲みながら、彼らの帰還を待ちたいと思います。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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