常夏の島、ハワイ。 その島に、冬には雪が積もるほど高い山があるのをご存知でしょうか? 標高4,205m、マウナケア山。 「白い山」という意味を持つこの場所は、世界で最も星空に近い場所の一つです。
その山頂に、ひときわ目立つ「青い円筒形の建物」が建っています。 日本の国立天文台が誇る「すばる望遠鏡」です。

1999年の稼働から25年以上経ちますが、いまだに「世界トップクラス」の性能を維持し続けているこの望遠鏡。 なぜ日本は、わざわざハワイに望遠鏡を作ったのか? そして、どうやって巨大なガラスの鏡を制御しているのか? 今日は、日本の天文学の「実家」とも言える、すばるの話をしましょう。
一枚岩の怪物
すばるの心臓部は、光を集める「主鏡(しゅきょう)」です。 その直径はなんと8.2メートル。 テニスコートの横幅と同じくらいの巨大なガラスの円盤です。
当時の常識では「一枚のガラスでこれほど大きな鏡を作るのは不可能」と言われていました。 重さで自身の形が歪んでしまうからです。 欧米の望遠鏡は、小さな六角形の鏡をパズルのように組み合わせる方式(分割鏡)を選ぶケースが多いです(※ジェイムズ・ウェッブもこれです)。
しかし、日本はあくまで「一枚岩」にこだわりました。継ぎ目のない鏡は、理論的により均一で美しい像を得やすい です。 それを実現したのが、「アクティブ光学」という当時としてはクレイジーとも言える技術でした。
261本の「ロボットの指」
重さ23トンもある巨大な鏡。 望遠鏡を傾けると、自重でグニャリと歪んでしまい、ピントがボケてしまいます。 そこで日本の技術者は、鏡の裏側に「261本のアクチュエータ(ロボットの指)」を取り付けました。
望遠鏡が傾くたびに、裏側からこの指たちが鏡を「ナノメートル単位」で押し引きし、常に完璧な放物面を維持し続けるのです。 「薄くてペラペラな鏡を、裏から指で支えて形を整える」 この超精密な制御技術のおかげで、すばるは世界で最もシャープな視力を手に入れました。
圧倒的な「視野の広さ」
すばるには、ハッブルやジェイムズ・ウェッブにも負けない「最強の武器」があります。 それは「視野の広さ」です。
普通の望遠鏡が「ストローの穴から空を見ている」ような狭い視野なのに対し、すばるは「超広視野カメラ(HSC)」を使って、満月9個分もの広さを一度に撮影できます。
- ハッブル・JWST: 狭い範囲をズームで見るのが得意(一点豪華主義)
- すばる: 広い夜空を一気にスキャンするのが得意(サーベイ観測)
この能力のおかげで、すばるは「未知の天体」を見つけるのが大得意です。 今、世界中の天文学者が探している「太陽系第9惑星(プラネット・ナイン)」を見つけるとしたら、それは間違いなくすばる望遠鏡だろうと言われています。
130億光年彼方の「夜明け」へ
すばるのもう一つの功績は、宇宙で最も古い銀河を次々と発見していることです。 130億年前の光を捉え、宇宙がまだ暗闇から明け始めた頃(宇宙の再電離)の姿を私たちに見せてくれています。
ハワイの山頂で、酸素ボンベを背負いながらメンテナンスを続ける技術者たち。 彼らが守る「青い瞳」は、今夜も宇宙の果てを見つめています。
参考文献
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