酸素濃度は地上の半分。標高5000mのアタカマ砂漠に世界最強の望遠鏡「アルマ望遠鏡」がある理由

ハワイのマウナケア山(標高4,200m)にある「すばる望遠鏡」の話を聞いた時、 「あそこも十分高いな」と思った方。 上には上がいます。

南米チリ、アタカマ砂漠。 その標高は、なんと5,000メートル。 富士山よりもはるかに高く、酸素は地上のおよそ半分しかありません。人間が生身で活動すれば、すぐに高山病で倒れてしまう過酷な世界です。

そんな「地球上で最も空に近い場所のひとつ」に、66台もの巨大なパラボラアンテナが並んでいます。 日米欧が協力して建設した、究極の電波望遠鏡「アルマ(ALMA)」です。 なぜ、こんな辺鄙な場所に作ったのか? それは、あルマ望遠鏡が見たいものが「水蒸気」に弱いからです。

アタカマ砂漠にあるALMA望遠鏡
Image Credit: ESO/C.Malin

目次

人間の目に見えない「暗闇」を見る

すばる望遠鏡は、私たちが目で見える「光(可視光)」を集めます。 しかし、宇宙には光を出さない真っ暗なガスや塵(ちり)がたくさん漂っています。 そここそが、新しい星が生まれる「産声」の場所であり、生命の材料が作られる工場なのです。

それを見るには、光ではなく「電波(ミリ波・サブミリ波)」をキャッチする必要があります。 しかし、この電波は「湿気(水蒸気)」に弱いという弱点があります。 地上の湿った空気を通すと、電波が吸収されて消えてしまうのです。

だからこそ、一年中雨が降らず、空気がカラカラに乾いている標高5,000mの砂漠が必要でした。 アルマは、地球のノイズを避けるために、雲の上まで登ったのです。


山手線サイズの巨大な瞳

アルマの最大の特徴は、66台のアンテナを「光ファイバーで繋いで、一つの巨大な望遠鏡として使う」ことです。 これを「電波干渉計(かんしょうけい)」と呼びます。

アンテナ同士の間隔を広げれば広げるほど、仮想的な望遠鏡のサイズ(口径)は大きくなります。 アルマは、アンテナを最大で16kmも離して配置することができます。 これは、「直径16km(山手線くらいの大きさ)のレンズを持った望遠鏡」と同じ視力を持つことを意味します。集められる光の量はアンテナの総面積で決まりますが、細かさ(解像度)は16km級になります。

その視力は、可視光望遠鏡とは比較にならないほどの細かさで遠くの宇宙を見通します。


ブラックホールと、惑星の赤ちゃん

この圧倒的な視力が、歴史的な快挙を成し遂げました。

  • ブラックホールの撮影: 2019年、世界中のニュースになった「ブラックホールのオレンジ色のリング(M87*)」。 あれは地球サイズの仮想望遠鏡(EHT)で撮影されましたが、その「要(かなめ)」としてデータの中心を担ったのが、南半球最強のアルマでした。 (※アルマがいなければ、あの画像はボケボケで合成できませんでした)
  • 惑星誕生の現場(おうし座HL星): もう一つの衝撃は、生まれたばかりの星の周りに、くっきりと「円盤の溝」を写したことでした。 ガスと塵が集まって、新しい惑星ができつつある瞬間。 教科書で「こうだろう」と想像されていた図が、実写として証明されたのです。
NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡によって撮影されたM87銀河の広視野画像と、イベントホライズンテレスコープにより撮影されたブラックホールのシルエット
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/Event Horizon Telescope Collaboration

極低温の心臓部

アルマがキャッチするのは、宇宙から届く微弱な電波の「熱」です。 その温度は、絶対零度(-273℃)に近い極寒の世界。 そんな微かな信号を捉えるために、アルマの受信機(センサー)はとんでもない技術で冷やされています。

使われているのは「超伝導(SIS接合素子)」などの技術。 受信機を4ケルビン(約マイナス269℃)までキンキンに冷やすことで、センサー自体の熱ノイズを極限まで消し、宇宙の微かな囁きを聞き取っているのです。 砂漠の灼熱と、センサーの極低温。 この温度管理こそが、アルマの超高感度を支えています。


宇宙の味見をする

アルマのもう一つの得意技は、「宇宙の成分分析」です。 電波の波長を詳しく調べることで、そこにどんな分子が浮いているかが分かります。

アルマはこれまでに、宇宙空間で「糖類(グリコールアルデヒド)」「アルコール」、さらには生命に不可欠な複雑な有機分子を次々と発見しています。 私たちがまだ見ぬ遠くの星でも、生命のスープはすでに煮込まれているのかもしれません。

見えないものを見て、聞こえない音を聞き、宇宙の匂いを嗅ぐ。 アルマ望遠鏡は、五感をフルに使って宇宙を感じ取る、人類最大の感覚器官なのです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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