宇宙の「場所」を特定せよ。欧州の重力波望遠鏡「VIRGO」と、最強の防振装置

アメリカのLIGOは人類で初めて重力波を捉えました。 しかし、LIGOには一つだけ弱点がありました。

「何か聞こえたけど、どの方向か分からない」のです。

LIGOは2台ありますが、2台だと「あっちの方角の、どこかの円周上のどこか」という、非常に広い範囲しか絞り込めません。 雷の音は聞こえたけれど、どこに落ちたか分からない状態です。

そこに現れた救世主が、イタリアのピサ近郊(カッシーナ)にある重力波望遠鏡「VIRGO(バーゴ)」です。 第3の耳である彼が加わったことで、人類はついに重力波の発生源を「ピンポイント」で指差すことができるようになったのです。「ピンポイント」といっても、実際には空の数平方度という広さですが、それでも従来とは比べ物にならない精度です。

VIRGO外観
Image Credit: EGO

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三角測量の魔法

なぜ3台目が必要なのか? それは「三角測量」をするためです。重力波の発生源を特定するカギは、「到着時間のズレ」なのです。

重力波は光の速さで進みます。 もし、宇宙のある一点から重力波が来たとすると、

  1. アメリカ(LIGOハンフォード)に届く。
  2. 数ミリ秒後に、別のアメリカ(LIGOリビングストン)に届く。
  3. さらに数ミリ秒後に、ヨーロッパ(VIRGO)に届く。

この「到着時間のズレ」を3点で比較すれば、計算によってピタリと方向を特定できます。

VIRGOが稼働したおかげで、検索範囲は「全天の半分」から「全天の数パーセント」まで劇的に狭まりました。 これにより、すばる望遠鏡のような「光の望遠鏡」が、その方向を一斉に向くことができるようになったのです。


伝説の防振装置「スーパーアテニュエータ」

VIRGOは、腕の長さこそ3km(LIGOより1km短い)ですが、ある一点において世界最高と言われる技術を持っています。 それが、鏡を吊るす防振装置「スーパーアテニュエータ(Superattenuator)」です。

これは、高さ約10メートルにも及ぶ、巨大な「多段振り子」です。 天井からワイヤーで重りを吊るし、その下にまたワイヤーで重りを吊るし……これを5段、6段と繰り返します(まるで巨大なシャンデリアです)。

振り子には、「素早い振動(高周波)を伝えない」という性質があります(メカニカルフィルター)。 これを何段も重ねることで、地面がガタガタ揺れていても、一番下の鏡はピタッとも止まったままになります。

この装置のおかげで、VIRGOは「低い周波数(重くてゆっくりした波)」の感度において、初期のLIGOを凌駕していました。 この「機械的な振動制御」へのこだわりは、職人の国イタリアならではの美学を感じさせます。

この徹底した防振こそが、VIRGOを「方向を決めるために不可欠な耳」にしているのです。


歴史を変えた「中性子星の合体」

2017年8月17日。VIRGOが伝説になった日です。 LIGOとVIRGOの3台が、ほぼ同時に信号(GW170817)をキャッチしました。

VIRGOのおかげで場所が特定され、世界中の望遠鏡(すばる含む)が一斉にその方向を観測。 その結果、「中性子星同士の衝突(キロノバ)」の光を捉えることに成功したのです。

この衝突によって、宇宙に大量の「金(ゴールド)」「プラチナ」がバラ撒かれたことが確認されました。 あなたの指輪の金も、元を辿れば、VIRGOが捉えたような星の衝突で作られたものだったのです。 「音(重力波)」と「光(電磁波)」が初めてリンクした、天文学の金字塔です。


LIGO・VIRGO・KAGRAの共演

VIRGOの鏡は、LIGOと同じ「合成石英」です。 つまり、世界は今、こうなっています。

それぞれ得意な武器が違います。 得意な周波数帯も微妙に違います。 だからこそ、全員が協力することで、どんな重力波も逃さない「地球規模の観測ネットワーク」が完成するのです。


乙女座の瞳

VIRGOという名前は、おとめ座(Virgo)がある方向の銀河団を観測目標にしていたことから名付けられました。 繊細な「振り子」で地面のノイズを消し去り、静寂の中で宇宙の声を待つ「乙女」。

彼女が加わったことで、私たちの宇宙地図は一気に正確になりました。 次は日本のKAGRAもそこに加わり、4台体制での観測が始まります。 そうすれば、いつか「宇宙誕生の瞬間の産声」さえも、方向付きで聞こえる日が来るかもしれません。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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