深海1000mと同じ圧力。金星の空気が「90倍」も重くなってしまった理由

みなさんは、普段生活していて「空気が重いなぁ」と感じることはありますか? 会議で気まずい沈黙が流れたとき……ではなく、物理的な重さのことです。 私たちは普段意識しませんが、頭の上には見えない空気の層があり、常に私たちを押しています。これを「1気圧」と言いますね。

では、もしこの空気が90倍の重さになったら、どうなると思いますか?しかも、それが一瞬ではなく、何十億年も続いていたとしたら。

そこはもう、空の下というより、海の底です。 地球でいえば、水深900m〜1000mの深海に潜っているのと同じ圧力。 生身の人間なら、一瞬で押しつぶされてしまいます。

これが、お隣の惑星「金星」の地上の日常です。 大きさも重力も地球とそっくりな「双子の星」なのに、なぜ金星だけが、こんなに分厚くて重苦しい空気を背負い込むことになってしまったのでしょうか?

今日は、金星の大気が「片付けられなくなってしまった」理由についてお話ししましょう。

目次

火山が吐き出した、大量の「ため息」

金星の表面(Maat Mons)
Image Credit: ESA/DLR

まず、金星にある大量の空気(そのほとんどは二酸化炭素です)は、どこから来たのでしょうか? 答えは、足元の「地面」からです。

金星には、かつて活発な火山活動があったと考えられています(今も活動しているかもしれません)。 火山は、マグマと一緒に大量のガスを噴き出します。 これを人間で例えるなら、星が大きくつく「ため息」のようなもの。

この火山ガスの中に、大量の二酸化炭素が含まれていました。 これは地球も同じです。太古の地球でも、火山が活発に二酸化炭素を吐き出していました。

では、なぜ地球の大気は90気圧にならず、金星だけがガスまみれになってしまったのでしょうか?

地球にあって、金星にない「巨大な空気清浄機」

プレートテクトニクスの図解
Created with Gemini

地球と金星の運命を分けたのは、「プレートテクトニクス」という機能があったかどうか、です。

地球の表面は、いくつかの巨大な岩盤(プレート)に分かれていて、それらがゆっくりと動いています。 これが地震の原因にもなりますが、実は地球の環境を守る、とても大切な「リサイクル機能」を果たしているのです。

地球の二酸化炭素のリサイクルは、こんな風に進みます。

  1. 空気中の二酸化炭素が、雨に溶けて海に落ちる。
  2. 海の中でカルシウムなどと結びつき、「炭酸塩(石灰岩など)」という岩石に変わる。
  3. その岩石が海底に溜まり、プレートの動きに乗って、地球の深部(マントル)へと沈み込んでいく。

つまり、地球は増えすぎた二酸化炭素を「岩石に変えて、地面の中に埋め戻している」のです。 この「巨大な空気清浄機」が動いているおかげで、地球の大気はちょうどいい薄さに保たれています。

フィルターを交換しなかった金星

ところが、金星ではこのシステムが働きませんでした。

金星は高温で水が蒸発してしまったため、地殻がカラカラに乾燥して硬くなり、プレートが動くことができなかった(沈み込めなかった)と考えられています。 つまり、「地球のような、持続的に動くプレートテクトニクスは存在しないと考えられています。」と考えられています。

これは、「フィルターを交換しない空気清浄機」のようなものです。

火山活動によって、新しい二酸化炭素はどんどん供給されます。 でも、それを片付ける(地中に戻す)システムがない。 雨も降らないので、洗い流すこともできない。

結果、数十億年分の火山ガスが、すべて大気中に溜まりっぱなしになってしまいました。 それが積み重なりに積み重なって、今の「90気圧」という異常な重さになってしまったのです。

重力は地球と同じなのに

「金星の重力がすごく強いから、空気をたくさん引きつけているんじゃないの?」 そう思う方もいるかもしれません。

でも実は、金星の重力は地球の約0.9倍。むしろ地球より少し軽いくらいです。 それなのに、まとっている空気の量は地球の90倍以上。

これは、重力の強さの問題ではなく、「炭素の置き場所」の違いなんです。 地球にある二酸化炭素のほとんどは、空ではなく「地面の中(岩石)」に隠されています。 もし、地球の岩石に含まれる二酸化炭素をすべて空中に解放したら、地球も金星と同じように数十気圧の厚い大気に包まれてしまうと言われています。

金星は、私たちが地面の中に隠しているものを、すべて空にさらけ出している状態なんですね。

まとめ

深海のような圧力を持つ、金星の重たい大気。 その正体は、星が一生をかけて吐き出し続け、ついに片付けることができなかった「ため息」の集積でした。

地面が動き、雨が降り、空気が循環する。 私たちが普段、当たり前だと思っている地球のシステムが、実は私たちをこの猛烈な重圧から守ってくれていたのです。

もし今度、空気清浄機のフィルターを掃除することがあったら、思い出してください。 「地球もこうやって、毎日せっせと空気をきれいにしてくれているんだな」と。

そう思うと、いつもの空気が少しだけ美味しく感じられるかもしれません。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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