みなさんは、夕方の西の空にひときわ明るく輝く「一番星」を見つけたことはありますか? そう、金星(Venus)です。
あの美しい輝きを見ていると、まさかその星の表面が、鉛も溶けるほどの灼熱地獄だなんて想像もつきませんよね。

実は今、その金星に向けて、ヨーロッパから新しい「調査機」が旅立とうとしているのをご存知でしょうか。 その名は「EnVision」。
今日は、地球の「双子の妹」とも呼ばれる金星の謎と、その秘密を暴こうとする次世代の探査機について、少しだけお話ししましょう。 ミルクティーが冷めないうちに、ゆっくりしていってくださいね。

地球と金星、似ているようで全く違う「ふたご」の運命
夜空に浮かぶ金星は、地球ととてもよく似ています。 大きさも、重さも、生まれた場所もほとんど同じ。まるで瓜二つの「双子の姉妹」としてこの宇宙に誕生しました。
けれど、46億年という長い時間が、二人の運命を残酷なほどに変えてしまいました。
姉である地球は、青い海と緑に恵まれ、生命が謳歌する楽園になりました。 一方、妹の金星は、分厚い雲に覆われ、気温は460℃を超え、空からは硫酸の雨が降る「不毛の大地」となってしまったのです。
「なぜ、私たちは違う道を歩んでしまったの?」
その答えを探るために計画されたのが、欧州宇宙機関(ESA)が主導する探査ミッション「EnVision(エンビジョン)」です。 2030年代初頭の打ち上げを目指して、今まさに開発が進められています。
欧州からの使者「EnVision」ってどんな探査機?
これまでにも、金星を訪れた探査機はいくつかありました。 では、EnVisionは一体何が違うのでしょうか?
一言で言えば、「星の健康診断」を、かつてないほど精密に行うことができる点です。
これまでの探査が「外見の写真撮影」や「大気のサンプリング」だったとしたら、EnVisionが行うのは「全身のMRIスキャン」に近いかもしれません。
分厚い雲のカーテンを透かす「魔法の目」
金星は、恥ずかしがり屋の星です。 常に分厚い雲(硫酸の雲)で全身を隠しているため、普通のカメラでは地表を見ることができません。
そこでEnVisionは、人間の目には見えない「レーダー」という特別な目を使います。 雲を突き抜ける電波を地表に当て、その跳ね返りをキャッチすることで、地形をくっきりと浮かび上がらせるのです。
これはまるで、厚い毛布にくるまった人の形を、透視能力で見通すようなもの。 NASA(アメリカ航空宇宙局)から提供される高性能なレーダー(VenSAR)を使い、これまでぼんやりとしか見えていなかった金星の「素顔」を、これまでより桁違いに高い解像度で描き出そうとしています。
眠っているのか、起きているのか。星の「鼓動」を測る
もう一つ、EnVisionが解き明かそうとしている大きな謎があります。 それは、「金星は今も生きているのか?」ということです。
もちろん、生命がいるかという意味ではありません。 星としての「鼓動」、つまり火山の噴火や地震が今も起きているかという意味です。
地球では、火山がガスを吐き出し、それが大気の成分を調整する役割を果たしています。いわば、星の「呼吸」ですね。 もし金星でも今、火山が活動しているとしたら?
それは、あの過酷な環境がどのように作られ、そして維持されているのかを知るための、決定的な証拠になるはずです。
EnVisionは、地下数百メートルまで探ることができるレーダーサウンダーや、岩石の種類を見分ける分光計を使って、この星の「内科検診」も同時に行います。 地面の下で、熱いマグマがまだ脈打っているのかどうか。その答えがもうすぐ分かるかもしれません。

私たちが「地球」でいられる理由を知る旅
EnVisionが金星へ行く本当の理由。 それは、金星を知ることであると同時に、「なぜ地球は、生命が住める星であり続けられたのか」を知ることでもあります。
もしほんの少し運命の歯車が違っていたら、私たちが住むこの地球も、金星のような灼熱の世界になっていたかもしれません。
EnVisionは、過去へさかのぼるタイムマシンのように、二つの惑星が別の道を歩み始めた「分岐点」を探しに行きます。 それは、私たちが今、この青い星で穏やかにミルクティーを飲んでいられることの「奇跡」を、科学的に証明する旅になるでしょう。
まとめ
今夜、もし雲が晴れていたら、西の空を見上げてみてください。 一番明るく輝いている星が金星です。
その美しい光の向こう側で、私たちの双子の妹は、厚い雲の毛布にくるまりながら、40億年前の秘密を抱えて眠っています。
数年後、地球を飛び立つEnVisionの姿を想像しながら眺めると、いつもの一番星が、少しだけ愛おしく見えてきませんか?

参考文献
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