月の女神「アルテミス」が、私たちを再びあの輝きへ誘う夜。アルテミスⅡ解説

私たちは普段、当たり前のように「そこにある明かり」として月を眺めていますよね。でも、想像してみてください。 あの白く輝く光の場所に、今、再び人類が手を伸ばそうとしていることを。それも、ただの機械ではなく、温かい血の通った人間が、あの静寂の世界へ旅立とうとしているのです。

今回は、半世紀の時を超えて動き出した人類最大の冒険、「アルテミス計画」、そしてその先陣を切る「アルテミス2」についてお話しします。

難しいロケットの仕組みの話ではありません。 これは、夜空を見上げるのが少しだけ誇らしくなる、私たちと月の「再会」の物語です。



目次

50年の沈黙を破る、月の女神の目覚め

artemis1の打ち上げ時写真
Image Credit: NASA/Keegan Barber

みなさんは、ギリシャ神話をご存知でしょうか? かつて人類を初めて月へと運んだ計画は、太陽神の名を借りて「アポロ計画」と呼ばれました。

それから約50年。 長い長い沈黙を経て、再び月を目指すこのプロジェクトには、アポロの双子の姉であり、「月の女神」である名前が授けられました。

それが、「アルテミス計画」です。

弟のアポロが切り拓いた道を、今度は姉のアルテミスが、より優しく、そしてより力強く進んでいく。 なんだか、神話の続きを現代の私たちが紡いでいるようで、とてもロマンチックだと思いませんか?

モノクロの記憶から、フルカラーの現実へ

50年前のアポロ計画は、世界中の人々がブラウン管テレビにかじりつき、ノイズ混じりの映像を見つめていました。 それは「遠い国の英雄たち」の物語だったかもしれません。

でも、今回のアルテミスは違います。 4Kの高画質で、SNSを通じてリアルタイムに、宇宙船の窓から見える「青い地球」が私たちの手元のスマートフォンに届くのです。

それは、月がぐっと私たちの「日常の隣」に近づく瞬間でもあります。


「降りない」という、とても大切な約束

artemis2の計画
Image Credit: NASA

さて、今回お話しする「アルテミス2」ミッションには、ひとつの大きな特徴があります。 それは、「月には着陸しない」ということです。

「えっ、月に行くのに降りないの?」 そう思われるかもしれません。せっかく遠くまで行くのだから、タッチしてきたいですよね。

でも、これは決して「手抜き」や「失敗」ではありません。 これは、次に続く大きな一歩(アルテミス3)を確実に成功させるための、「最高に美しい周回旅行」なのです。

宇宙に描く「8の字」

アルテミス2の宇宙船は、地球を出発した後、月の周りをぐるりと回って、そのまま重力を利用して地球へ戻ってくる「自由帰還軌道」というルートを通る予定です。

想像してみてください。 地球と月を結ぶ見えない糸の上を、スケートのように滑らかに「8の字」を描いて戻ってくる姿を。

月面に着陸しない代わりに、彼らは月のアバタ(裏側)へと回り込みます。 人類がこれまで到達したどの場所よりも遠い、孤独と隣り合わせの場所です。

そこで彼らは、システムが正常に動くか、人間が宇宙空間で数週間安全に暮らせるかを確認します。 いわば、これから始まる長い冒険のための単なるリハーサルではなく、宇宙船のシステムや生命維持機能などを実際に人を載せて試す重要な技術検証 でもあります。


オリオンという名の、小さな船と4人の冒険者

彼らが乗り込むのは、「オリオン」と名付けられた宇宙船です。 冬の夜空に輝く、あの有名な星座の名前ですね。

このオリオン宇宙船、4人が乗り込む居住スペースは、決して広くはありません。 例えるなら、「少し大きめのワンボックスカー」くらいの広さでしょうか。 その小さな空間で、彼らは寝食を共にし、命を預け合って月までの往復旅行をします。

「選ばれし英雄」から「私たちの代表」へ

アポロ計画の時代、宇宙飛行士といえば「屈強な白人男性」というイメージが強かったかもしれません。 しかし、アルテミス計画は違います。

今回のクルーには、女性もいれば、有色人種の方もいます。 それは、特定の誰かではなく、「人類という種そのもの」が月へ向かうというメッセージです。

彼らは、私たちの目の代わりとなって月を見に行きます。 狭い船内の窓から彼らが目にする景色は、そのまま私たちが目にする景色となるのです。


窓の外に見えるのは、ビー玉のような故郷

アルテミス2のハイライト、それは間違いなく「地球の出(アースライズ)」でしょう。

月のゴツゴツとした灰色の地平線から、青く、白く輝く地球がゆっくりと昇ってくる光景。 真っ暗な宇宙空間に、ぽつんと浮かぶ、水と生命の塊。

アルテミス2が月の裏側を回る時、彼らの視界には地球全体が小さな「ビー玉」のように映るはずです。 その小さな青い点の中に、私たちが飲んでいるミルクティーも、昨日の悩み事も、大切な人への想いも、すべてが詰まっています。

彼らが持ち帰ってくれるその映像は、きっと私たちの心に、言葉では言い表せない「優しさ」を灯してくれるはずです。 自分たちが住む場所が、こんなにも脆くて、美しい宝石だったのだと再確認させてくれるでしょう。


なぜ今、また月へ? その先にある「赤い星」

artemis1 打ち上げ直前の写真
Image Credit: NASA

「アポロ計画ですでに月には行ったのに、どうして今さらまた行くの?」 そんな疑問を持つ方もいるかもしれません。

実は、アルテミス計画が見据えているのは、月だけではありません。 月の女神が放つ矢の先には、さらに遠くにある赤い惑星、「火星」があります。

月は、火星へ行くための「港」になる場所です。 重力が地球の6分の1しかない月から出発すれば、重い燃料を節約して、より遠くへ行くことができます。 つまり、今回のアルテミス2は、人類がいつか火星という新天地へ移住するための、壮大な第一章の終わりであり、第二章の始まりなのです。

アルテミス2は、月周回を成功させることで アルテミス3(月面着陸)につながり、将来的には月周辺のミニ宇宙ステーション(Gateway)などと連携しながら火星へ向かう長期目標へと続いていきます

かつて海の中にいた生命が、陸へと上がったように。 私たちは今、地球というゆりかごから、そっと片足を出そうとしています。


まとめ:今夜、月の影に想いを馳せて

いかがでしたでしょうか。

次に私たちが月を見上げる時、そこにはもう「ただの岩石」としての月ではなく、 小さな船に乗った4人の人間が、命がけで旅をしている舞台としての月があるかもしれません。

50年の時を超えて、姉弟の神話が再び動き出しました。 そのプロローグとなるのが、今回の「アルテミス2」です。

そして、このミッションが無事に成功したあとには、いよいよ人類が再びその足で月面に降り立つ「アルテミス3」が待っています。 そのお話は、また別の夜にゆっくりとすることにしましょう。

もし今夜、空が晴れていたら、少しだけ窓を開けて月を探してみてください。 そして、その冷たく静かな光に向かって、心の中で「ボン・ボヤージュ(よい旅を)」と呟いてみませんか?

その想いはきっと、空気のない宇宙空間を越えて、勇敢な旅人たちの背中を押す風になるはずです。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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