太陽のミステリー。「ストーブから離れるほど熱くなる」のはナゼ?

ティーカップにあたたかい飲み物をいれたとき、湯気はカップから離れれば離れるほど冷めていきますよね。 焚き火だって、ストーブだってそうです。熱源から遠ざかれば、温度は下がる。 それが、私たちが知っている「世界の常識」です。

でも、私たちの頭上で毎日輝いている「太陽」の世界では、この常識が通用しない場所があるんです。 なんと、熱源から離れれば離れるほど、温度が100倍以上に跳ね上がるという、摩訶不思議なエリアが存在します。

今日は、太陽が抱える最大のミステリー、「コロナ加熱問題」について、少しだけ夜更かしして語り合いましょう。 難しい数式は使いません。温かい飲み物を片手に、リラックスして聞いてくださいね。


目次

太陽の「空」は、なぜか地面より熱い

太陽の表面(光球)の温度をご存じですか? 約6,000℃です。鉄も蒸発してしまうほどの高温ですが、宇宙の基準で言えば「標準的」な温度です。

太陽の周りには、地球の大気と同じように、薄いガスの層が広がっています。 これを「コロナ」と呼びます。 皆既日食のときに、太陽の周りに真珠色に輝いて見える、あの美しいベールです。

常識的に考えれば、熱源である太陽の表面から離れたコロナは、6,000℃よりも低くなるはずですよね。 ところが、驚くべきことにコロナの温度は100万℃以上もあるのです。

  • 太陽の表面(ストーブ):6,000℃
  • 上空のコロナ(部屋の空気):1,000,000℃

例えるなら、「キッチンのコンロは弱火なのに、なぜか換気扇のあたりでお湯が沸騰している」ような状況です。 これって、すごく奇妙じゃありませんか?

この「なぜ熱源から遠い場所の方が熱いのか?」という謎は、「コロナ加熱問題」と呼ばれ、70年以上もの間、世界中の天文学者を悩ませてきました。

2012年7月19日に撮影された中程度に強い太陽フレア
Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/SDO

犯人は誰だ? 2つの有力な「容疑者」

太陽の表面からコロナへ、どうやって熱が運ばれているのか。 長年の研究で、2つの有力な説(容疑者)が浮かび上がってきました。

それが、「波動説」「リコネクション説」です。

名前だけ聞くと難しそうですが、どちらも私たちの身近な現象に似ています。

容疑者1:波動説(アルベン波)

〜遠くまでエネルギーを運ぶ「鞭(ムチ)」の原理〜

一つ目の説は、「波」がエネルギーを運んでいるという考え方です。 これを専門用語で「アルベン波」と呼びますが、ここでは「長いロープ」を想像してみてください。

重たくて長いロープの端を持って、手首をクイッと動かしたことはありますか? 手元(太陽の表面)の動きは小さくても、その動きは波となってロープを伝わり、先端(コロナ)に行くと「パチン!」と激しく弾けますよね。

これと同じことが太陽で起きているのではないか、というのがこの説です。 太陽の表面で起きた磁場の揺れが、波となって上空へ伝わり、コロナの希薄なガスの中で激しく弾けて熱に変わる。 つまり、「太陽が磁力のロープを振り回して、大気を叩いて温めている」というわけです。

容疑者2:リコネクション説(ナノフレア)

〜絡まった糸が切れる「パチン!」という衝撃〜

二つ目の説は、「磁力線のつなぎ変え」による爆発です。 これは、「絡まった輪ゴム」「イヤホンのコード」をイメージすると分かりやすいかもしれません。

太陽の表面は、煮えたぎる鍋のように激しく動いています。 そこにある磁力線(磁石の力の線)も、ぐちゃぐちゃにねじれたり、絡まったりしています。

ねじられた輪ゴムを限界まで引っ張ると、どうなるでしょうか? 「バチン!」と切れて、勢いよく弾けますよね。あの瞬間、溜まっていたエネルギーが一気に解放されて、熱が出ます。

太陽の大気中でも、絡まった磁力線が無理やり引きちぎられ、隣の磁力線とパチンと結び直される現象が起きています(これを磁気リコネクションと呼びます)。 この時、「ナノフレア」と呼ばれる小さな爆発が無数に発生し、その熱でコロナが温められているのではないか、という説です。

太陽の磁場観測結果
Image Credit: NASA/GSFC/Solar Dynamics Observatory

結局、どっちが正解なの?

「ムチの波」か、「輪ゴムのパチン」か。 長年、天文学者たちは「こっちが主犯だ!」「いや、あっちだ!」と激しい議論を戦わせてきました。

そして現在、NASAの探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」や、ESA(欧州宇宙機関)の「ソーラー・オービター」が、太陽に極限まで接近して直接観測を行っています。

その結果見えてきたのは、現在の観測からは、少なくとも両方のプロセスが関与している可能性が高いと考えられています。 場所やタイミングによって、波が主役だったり、リコネクションが主役だったり。あるいは、私たちがまだ知らない第三のプロセスが隠れている可能性すらあります。

太陽は、私たちが思うよりもずっと複雑で、ダイナミックな星なんですね。


まとめ

冷たいストーブの上で、お湯がグラグラと沸いている。 そんな常識外れなことが、私たちのすぐそばにある太陽で毎日起きているなんて、なんだかワクワクしませんか?

今夜、もし星が見えなくても、明日また太陽は昇ってきます。 朝、カーテンを開けて陽の光を浴びたとき、ふと思い出してください。

「今、私の頬を温めているこの光の向こうで、数え切れないほどの『ムチ』がしなり、無数の『輪ゴム』が弾けているんだな」と。

そう想像するだけで、いつもの朝が、少しだけ壮大なSF映画のワンシーンのように感じられるかもしれません。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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