天王星(Uranus)は、自転軸がほぼ90度傾いている「横倒し」の惑星として有名です。 そのため、その周りを回る現在知られている27個の衛星たちも、まるで「射的の的」のように、縦向きにグルグルと回っています。 上から下へ、下から上へ。 他の惑星とは全く違う景色が広がるこの場所で、衛星たちにはある「特別なルール」で名前がつけられています。
それは、神様ではなく「妖精や精霊」、そして「物語の登場人物」であることです。

名前の由来:息子が選んだ「粋」な計らい
太陽系の惑星や衛星の名前は、基本的に「ギリシャ・ローマ神話」から取られています(ジュピター、マーズ、ヴィーナスなど)。 しかし、天王星の衛星だけは違います。 ウィリアム・シェイクスピアと、詩人アレクサンダー・ポープの作品に登場するキャラクター名がつけられているのです。
- オベロン、チタニア(『夏の夜の夢』)
- アリエル、ミランダ(『テンペスト』)
- コーディリア(『リア王』)
- オフィーリア(『ハムレット』)
なぜここだけ「文学」なのでしょうか? 天王星(ウラヌス)を発見したウィリアム・ハーシェルは、衛星の名前を決めずに亡くなりました。 名付け親になったのは、その息子ジョン・ハーシェルです。
彼はこう考えました。 「父上が見つけた『ウラヌス』は、天空の神だ。空の神に仕えるなら、周りを回るのは神々よりも、空を飛び回る『空気の精霊(シルフ)』や『妖精(フェアリー)』の方がふさわしいのではないか?」
なんとも粋で、ロマンチックな発想ですよね。 こうして天王星の周りは、シェイクスピア劇場の舞台となり、個性豊かな役者たちが舞い踊ることになったのです。
注目の月①:ミランダ(Miranda) 〜つぎはぎの令嬢〜

数ある役者の中で、最も異彩を放っているのが「ミランダ」です。 名前の由来は、シェイクスピア最後の傑作『テンペスト』に登場する、可憐なヒロイン(公爵の娘)。
「さぞ美しい星なのだろう」と思って写真を見ると、衝撃を受けます。 その表面は、巨大なV字型の溝や、切り立った崖、デコボコの地形が入り乱れ、まるで「つぎはぎだらけのパッチワーク」のようになっているのです。
なぜこんな姿に? 一説によると、ミランダは過去に一度、巨大な衝突によって「粉々に砕け散った」ことがあると言われています。 バラバラになった破片が、重力でもう一度寄り集まって合体したため、岩と氷がデタラメに混ざり合った「フランケンシュタイン」のような姿になってしまったのです。ほかにも潮汐加熱や内部活動説もあります。
可憐な名前とは裏腹に、壮絶な過去を持つ「傷だらけのヒロイン」。 ちなみにここには、「ヴェローナ断崖」と呼ばれる高さ20km(エベレストの2倍以上!)の、太陽系で一番高い崖があります。 (※ヴェローナは『ロミオとジュリエット』の舞台ですね。ここもシェイクスピアです!)
注目の月②:チタニアとオベロン 〜妖精の王夫婦〜
天王星で最も大きな2つの衛星には、『夏の夜の夢』に登場する妖精の女王「チタニア」と、その夫である妖精の王「オベロン」の名がつけられています。
- チタニア(Titania): 天王星最大の衛星。表面には巨大な裂け目(峡谷)が走っています。かつて内部が溶けて膨張し、表面の氷が「パリッ」と割れた跡だと言われています。
- オベロン(Oberon): 2番目に大きな衛星。クレーターが多く、黒っぽい色をしています。物語の中でのオベロン王は、惚れ薬を使って女王にイタズラをする少々強引な性格ですが、宇宙のオベロンも古傷(クレーター)だらけの強面です。
仲良く回っているように見えますが、物語の中で二人は夫婦喧嘩ばかりしています。 宇宙でも、お互いの重力で干渉し合いながら、微妙な距離感を保っているのかもしれません。
注目の月③:アリエル(Ariel) 〜輝く空気の精〜
最後にもう一人、『テンペスト』に登場する空気の精霊「アリエル」。 この衛星は、天王星の月たちの中で「最も白く明るい」のが特徴です。
表面がつるっとしていて、比較的新しい氷で覆われているため、太陽の光(遠いので暗いですが)をよく反射します。 主人の命令で空を縦横無尽に飛び回る精霊アリエルのように、暗い天王星の周りでキラキラと存在感を放っています。
ギリシャ神話の神々ではなく、人間が書いた物語の登場人物たちが回る星、天王星。
横倒しという奇妙な世界で、砕けて集まったミランダや、喧嘩する妖精の夫婦、空を舞う精霊たちが、今も無言の劇を演じ続けています。 そう思うと、望遠鏡で天王星を覗くことは、宇宙で一番遠い「劇場」の観客席に座るようなものかもしれません。
「人はみな役者、世界はすべて舞台」 シェイクスピアの言葉通り、宇宙の果ても舞台であり、名優たちが輝いているのです。

参考文献
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