トリトンとは?|海王星の衛星が「逆向き」に回る理由

夜空で惑星を見上げるとき、その周りを衛星が回っていることを思い浮かべる人は少ないかもしれません。月が地球を回るように、木星にも土星にも、それぞれの惑星には衛星が存在します。

では、海王星はどうでしょうか。太陽から最も遠い惑星である海王星にも、「トリトン」という大きな衛星があります。トリトンは、太陽系の大型衛星の中でただ一つ、ある奇妙な特徴を持っています。親惑星の自転とは「逆方向」に軌道を回っているのです。

なぜ逆向きなのか。その理由を知ると、トリトンがどこから来た天体なのかが見えてきます。

Triton
Image Credit: NASA/JPL/USGS

目次

衛星はふつう、どちら向きに回るのか

まず、「逆向き」の何が珍しいのかを整理しましょう。

太陽系の惑星は、太陽を中心に生まれたガスと塵の円盤から誕生しました。惑星の衛星も多くの場合、惑星の周りにあった同じ材料から形成されています。このとき、惑星自身の自転と衛星の公転は、同じ方向になるのが自然です。地球の、木星のガリレオ衛星土星の衛星群も、いずれも惑星の自転と同じ向きに回っています。

惑星と同じ方向に公転する衛星を「順行衛星」と呼びます。対して、逆方向に回る衛星を「逆行衛星」と呼びます。太陽系の大型衛星の中で逆行衛星はトリトンだけです。


トリトンはなぜ逆向きなのか|捕獲された天体

逆行衛星の理由としてもっとも有力なのは、トリトンが海王星のそばで生まれた天体ではなく、外から来て重力に捕まった天体だという説です。

太陽系の外縁部には、冥王星のような天体が多数集まる「カイパーベルト」と呼ばれる領域があります。カイパーベルト天体は、太陽系が形成されたときに惑星になれなかった岩や氷の塊で、海王星の軌道よりさらに外側を漂っています。

トリトンは、もともとこのカイパーベルト天体の一つだったと考えられています。太陽系形成から間もない頃、海王星の近くを通り過ぎる際に重力に引き込まれ、そのまま衛星として取り込まれた。この「捕獲」のシナリオが主流的な見方です。

ただし、単に海王星の近くを通っただけでは天体は再び宇宙空間へ飛び去ってしまいます。現在は、もともと2つの天体が連なった「連星天体」の片方が海王星との重力相互作用で弾き飛ばされ、そのエネルギーを失ったもう片方が捕獲されたという説が有力です。

捕獲されたとき、トリトンはたまたま海王星の自転とは逆方向から接近しました。その軌跡がそのまま公転軌道として固定されたため、今も逆向きに回り続けているのです。


トリトンが冥王星に似ている理由

カイパーベルト天体という見方を支持する証拠が、トリトン自身の性質にもあります。

トリトンの密度や大きさ、表面を覆う物質の組成は、冥王星とよく似ています。どちらも岩と窒素の氷が混じり合った天体で、表面温度はマイナス230度前後という極寒の世界です。冥王星を調べれば調べるほど、トリトンとの共通点が増えていく。このことは、二つの天体が同じカイパーベルトという「出身地」を持つことを示唆しています。


活動する表面|窒素の間欠泉

外から来た天体であっても、トリトンは静止した世界ではありません。

1989年に探査機ボイジャー2号がトリトンの近くを通過したとき、地表から高さ8キロメートルほどに達する柱状の噴出物が撮影されました。これは火山ではなく、表面の半透明な窒素氷の下に閉じ込められた窒素が、わずかな太陽光によって温められ、圧力が高まった結果、一気に噴き出していると考えられています。

表面温度がマイナス230度に近い極寒の天体で活発な地質活動が起きているのは、非常に稀なことです。太陽から約45億キロメートルという遠距離にもかかわらず、トリトンはまだ活動を続けています。この活動の背景には、捕獲された直後に生じた強い潮汐加熱によって内部が長期間温められた可能性があると考えられています。


トリトンの未来|潮汐力がもたらす結末

逆行軌道であることは、トリトンの未来にも影響を及ぼしています。

惑星と逆方向に回る衛星は、惑星と衛星の間に働く「潮汐力」によって少しずつエネルギーを失い、軌道が内側に縮んでいきます。トリトンも現在、少しずつ海王星に近づいています。

数十億年後、トリトンが「ロッシュ限界」と呼ばれる距離まで近づくと、天体を引っ張りあう潮汐力が衛星自身の重力を上回り、トリトンは粉々に砕けると予測されています。砕けた破片はそのまま海王星の周囲に広がり、環(リング)を形成するとみられています。

現在の海王星にも細いリングがありますが、トリトンが砕けた後にできるリングははるかに大きく密度が高いものになると考えられています。


まとめ|逆行する軌道が語ること

トリトンが逆向きに回る理由は、海王星のそばで生まれた衛星ではなく、カイパーベルトから来た天体が重力に捕獲されたからだと考えられています。

捕獲された天体は、元々の軌道の名残として逆行軌道を持ちます。冥王星との類似点もこの出身地を裏付けています。そして逆行軌道は、遠い将来にトリトンが海王星へと近づき最終的に砕けるという運命をも決定しています。

夜空の片隅で、海王星はおよそ8等星の暗い光として存在しています。肉眼では見えず、望遠鏡がなければわかりません。しかしその周りを、今夜もトリトンが逆向きに静かに回り続けています。


参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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