星好きが愛用する赤色についてのおはなし

赤いライト
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お化け屋敷ではありません

ほかの記事で、「赤いライトを使ってください」というお話をしました。 「お化け屋敷みたいで怖い」とか「普通に白じゃダメなの?」と思った方もいるでしょう。

今日は、その謎解きです。 実はこの話、遠い昔の海や、私たちの目の奥にある「小さな工場」と深く関係しているんです。

人間の目は「高性能カメラ」

私たちの目の網膜には、光を感じとるための2種類のセンサー(細胞)があります。

  • 昼間のセンサー(錐体細胞): 色を感じるけれど、光がたくさん必要。
  • 夜のセンサー(桿体細胞): 色はわからない(白黒)けれど、わずかな光でも見える。

普段、明るい場所では「昼間のセンサー」が働いていますが、暗闇に入ると自動的に「夜のセンサー」に切り替わります。 この切り替え機能のことを「暗順応(あんじゅんのう)」と呼びます。

目の奥の工場と「ロドプシン」

問題は、この切り替えに「時間がかかる」ということです。

「夜のセンサー」が働くためには、目の奥で「ロドプシン」という特別な物質(タンパク質)を合成しなければなりません。 いわば、暗闇の中でコツコツと「暗視ゴーグル」を組み立てているようなものです。 これが完成して、目が完全に夜モードになるまで、だいたい30分〜1時間かかります。

しかし、このロドプシンには弱点があります。 「強い光を浴びると、一瞬で壊れてしまう」のです。

せっかく30分かけて組み立てた暗視ゴーグルも、スマホの画面や白い懐中電灯の光を「ピカッ」と浴びた瞬間、パァになってしまいます。 そしてまた、最初から作り直し(ロードし直し)です。 流星群の観測中にスマホを見てはいけない最大の理由は、これなんです。

海賊の眼帯のミステリー

ここで少し、歴史の話をしましょう。 映画やアニメに出てくる海賊は、よく片目に「眼帯」をしていますよね。 あれは、必ずしも目が怪我をしているからではない、という説をご存知ですか?

海賊は、明るい甲板(昼モード)と、真っ暗な船倉(夜モード)を頻繁に行き来して戦わなければなりません。 暗い船倉に飛び込んだ瞬間、「目が慣れるまで見えない!」なんて言っていたら、敵にやられてしまいます。

だから彼らは、片方の目を常に眼帯で隠して「暗順応」させておいたと言われています。 いざ暗闇に入るときは、眼帯をパッとずらして、準備万端の「夜の目」を使う。 まさに命がけの知恵だったわけです。

なぜ「赤」なら大丈夫なのか?

話を現代に戻しましょう。 私たちは海賊のように眼帯をするわけにはいきませんが、代わりに「赤いライト」を使います。

実は、苦労して作った「ロドプシン」は、「赤い光」には反応しにくい(壊れにくい)という性質を持っています。 波長の長い赤い光は、エネルギーが低く、夜のセンサーを刺激しすぎないのです。

だから天文学者や星好きたちは、足元を確認したり星図を見るとき、必ず赤いライトを使います。 「せっかく暗闇に慣れた目を台無しにしないため」の、魔法の光なんですね。

闇と仲良くするマナー

赤いライトを使うことは、自分の目を守るだけでなく、周りで星を見ている人への「思いやり」でもあります。 誰かの目に白い光を当ててしまったら、その人の「30分の準備時間」を奪うことになりますからね。

次の流星群の日には、ぜひ赤いライトを忍ばせてみてください。 それはあなたが、闇と仲良くするための「パスポート」になるはずです。もしくは、眼帯を着けていってもいいかもしれません。

それでは、今夜も良い観測を。

Image Credit: Unsplash

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とコーヒーが好き。飯もちゃんと好き。

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