宇宙の質量の約85%を占めるとされながら、その正体が100年近く謎に包まれていた「ダークマター(暗黒物質)」。 2025年11月、この長年の謎に終止符を打つかもしれない重要な研究成果が、学術誌『Journal of Cosmology and Astroparticle Physics (JCAP)』に掲載され、大きな話題となっています。
東京大学の戸谷教授らの研究チームが、NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のデータを解析し、ダークマターの「直接的な痕跡」とも言える信号を発見した可能性があると発表しました。
何が見つかったのか?:天の川銀河を包む「光」
今回、研究チームが注目したのは、私たちが住む天の川銀河の「ハロー」と呼ばれる外側の領域です。 NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡が過去に観測した膨大なデータを詳細に再解析したところ、この領域から説明のつかない「過剰なガンマ線」が放射されていることが判明しました。
通常、宇宙から来るガンマ線は、パルサー(中性子星)や超新星残骸などの天体現象で説明がつきます。しかし、今回見つかったガンマ線の分布やエネルギー(約20GeV付近)は、既知の天体では説明ができず、ある一つの理論予測と驚くほど一致していました。
それが、「WIMP(ウィンプ)」と呼ばれるダークマターの候補です。
ダークマター同士の「対消滅」を観測した可能性
理論上、WIMPと呼ばれるダークマター粒子同士が衝突すると、互いに消滅(対消滅)し、そのエネルギーとしてガンマ線を放出すると考えられています。
今回の研究では、観測されたガンマ線の特徴が、WIMPが対消滅した際に放つとされる信号と非常に高い精度で一致していることが示されました。 これまでも「銀河中心」からの過剰なガンマ線は観測されていましたが、中心部は星が多くノイズが激しいため、ダークマターによるものか判別が困難でした。 しかし、今回は星が少ない「ハロー(銀河の外縁部)」で信号を捉えたため、「ダークマター由来である可能性が高い」と結論付けられています。
100年の謎解きへ、大きな一歩
もしこれが本当にダークマターの信号であれば、1930年代にその存在が予言されて以来、初めて人類が「見えない物質」の正体に触れたことになります。 これは、昨年のEHTによるブラックホール撮影に続く、あるいはそれ以上のノーベル賞級の発見と言えるかもしれません。
もちろん、科学的な確定には今後のさらなる検証が必要ですが、私たちは今、宇宙の歴史が変わる瞬間に立ち会っている可能性があります。
まとめ
- 東京大学などのチームが、天の川銀河周辺から「説明のつかないガンマ線」を検出した。
- この信号は、ダークマターの有力候補「WIMP」が対消滅した際の特徴と一致する。
- ノイズの少ない領域での発見であり、ダークマターの直接的な証拠となる可能性が高い。
「見えないもの」が見えるようになる。 天文学の進歩は、私たちの宇宙観をまたひとつ、大きく広げてくれそうです。
Image Credit: NASA

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