宇宙の質量の約85%を占めるとされながら、その正体が100年近く謎に包まれていた「ダークマター(暗黒物質)」。 2025年11月、この長年の謎に終止符を打つかもしれない重要な研究成果が、学術誌『Journal of Cosmology and Astroparticle Physics (JCAP)』に掲載され、大きな話題となっています。

東京大学の戸谷教授らの研究チームが、NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のデータを解析し、ダークマターの「直接的な痕跡」とも言える信号を発見した可能性があると発表しました。
ダークマターについて、これまでわかっていたこと
ダークマターは、名前のとおり 光を出さず、直接見ることのできない物質 です。望遠鏡でどれだけ探しても姿は見えません。それでも、天文学者たちは長いあいだ「確かに存在するはずだ」と考えてきました。
その理由は、星や銀河の動き にあります。銀河の中の星の回り方を詳しく調べてみると、目に見える星やガスの重さだけでは説明できないほど、強い重力が働いていることがわかりました。本来なら、銀河はとっくにバラバラになってしまうはずなのです。
そこで考えられたのが、「見えないけれど、重さ(重力)をもつ物質が存在するのではないか」という仮説でした。これが、ダークマターという考え方の始まりです。
現在の宇宙論では、宇宙全体の中身は
- 約 5% が私たちの知っている普通の物質
- 約 27% がダークマター
- 残りがダークエネルギー
と考えられています。つまり、星や惑星、私たち自身は、宇宙全体から見ると ほんの一部 にすぎず、ダークマターは宇宙の構造を支える「見えない主役」なのです。
ただし、ここで重要なのは、ダークマターの「正体」そのものは、まだわかっていないという点です。存在は強く示唆されているものの、それがどんな粒子で、どんな性質をもつのかは、今も研究が続いています。
ダークマターは、何かを壊したり、私たちに直接影響を与えたりする存在ではありません。
現時点では、「重さだけがある、正体のわからない成分」と考えられています。
いま、何が見つかったのか?:天の川銀河を包む「光」
今回、研究チームが注目したのは、私たちが住む天の川銀河の「ハロー」と呼ばれる外側の領域です。 NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡が過去に観測した膨大なデータを詳細に再解析したところ、この領域から説明のつかない「過剰なガンマ線」が放射されていることが判明しました。
通常、宇宙から来るガンマ線は、パルサー(中性子星)や超新星残骸などの天体現象で説明がつきます。しかし、今回見つかったガンマ線の分布やエネルギー(約20GeV付近)は、既知の天体では説明ができず、ある一つの理論予測と驚くほど一致していました。
それが、「WIMP(ウィンプ)」と呼ばれるダークマターの候補です。
WIMP(弱く相互作用する重い粒子) は長くダークマターの候補として挙がっていた仮説的な粒子です。これは光や電磁気には反応しませんが、重力には影響を与えると考えられています。
ダークマター同士の「対消滅」を観測した可能性
理論上、WIMPと呼ばれるダークマター粒子同士が衝突すると、互いに消滅(対消滅)し、そのエネルギーとしてガンマ線を放出すると考えられています。
今回の研究では、観測されたガンマ線の特徴が、WIMPが対消滅した際に放つとされる信号と非常に高い精度で一致していることが示されました。 これまでも「銀河中心」からの過剰なガンマ線は観測されていましたが、中心部は星が多くノイズが激しいため、ダークマターによるものか判別が困難でした。 しかし、今回は星が少ない「ハロー(銀河の外縁部)」で信号を捉えたため、「ダークマター由来である可能性が高い」と結論付けられています。
ただ、他の天体現象との区別が完全についているわけではなく、有力な候補として注目されている研究成果であることに留意が必要です。今後、検証が進められていくことでしょう。
100年の謎解きへ、大きな一歩
もしこれが本当にダークマターの信号であれば、1930年代にその存在が予言されて以来、初めて人類が「見えない物質」の正体に触れたことになります。 これは、昨年のEHTによるブラックホール撮影に続く、あるいはそれ以上のノーベル賞級の発見と言えるかもしれません。
もちろん、科学的な確定には今後のさらなる検証が必要ですが、私たちは今、宇宙の歴史が変わる瞬間に立ち会っている可能性があります。
まとめ
- 東京大学などのチームが、天の川銀河周辺から「説明のつかないガンマ線」を検出した。
- この信号は、ダークマターの有力候補「WIMP」が対消滅した際の特徴と一致する。
- ノイズの少ない領域での発見であり、ダークマターの直接的な証拠となる可能性が高い。
「見えないもの」が見えるようになる。 天文学の進歩は、私たちの宇宙観をまたひとつ、大きく広げてくれそうです。
参考文献
- 東京大学|暗黒物質がついに見えた!?
- Britannica|What Is Dark Matter?
- NASA|Dark Matter
- CERN|Dark Matter
- BBC Science Focus|What is Dark Matter?
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