夜空を見上げると、星々は静かにそこにあるように見えます。しかし、もし私たちが宇宙の彼方から「太陽」を極めて精密に観測したとしたら、太陽は静止しておらず、わずかにフラフラと揺れ動いていることに気がつくはずです。
太陽を揺らしている正体は、木星や地球といった「惑星の重力」です。
系外惑星(太陽系以外の惑星)を見つける方法として、星のわずかな揺らぎから見えない惑星を見つけ出す「視線速度法」について解説します。

視線速度法の原理|惑星が恒星を揺らす力学
前回の記事で解説した「トランジット法」は、惑星が恒星の前を横切る際の「明るさの変化(影)」を捉える方法でした。一方、視線速度法は恒星の「動き」に注目します。
私たちが「惑星が恒星の周りを回っている」と考えるとき、恒星は完全に固定されているようにイメージしがちです。しかし、物理法則(万有引力の法則)の観点から見ると、これは正確ではありません。
重力はお互いに引き合う力です。太陽のような巨大な恒星が惑星を引っ張っていると同時に、小さな惑星もまた、恒星を引っ張っています。そのため、正確には「恒星と惑星の両方が、2つの天体の重さのバランスがとれる点(共通重心)を中心にして回っている」のです。
惑星に比べると恒星は圧倒的に重いため、恒星の動く円は非常に小さくなりますが、それでも惑星に引っ張られてフラフラと「揺り動かされて」います。
ドップラー効果とは?視線速度を測る仕組み

では、何十光年も離れた星の、そのわずかな「揺れ」をどうやって観測するのでしょうか。遠すぎて、星が動いている様子を直接カメラで捉えることは不可能です。
ここで登場するのが「ドップラー効果」という物理法則です。
ドップラー効果とは、波を出すもの(音源や光源)が移動することによって、波の長さ(波長)が伸び縮みして観測される現象です。身近な例では、救急車のサイレンが近づくときは音が高く(波長が短く)聞こえ、遠ざかるときは音が低く(波長が長く)聞こえる、あの現象です。
光も「波」の性質を持っています。恒星が揺れ動き、地球に向かって近づいてくる時期には、星から届く光の波長はギュッと縮んで「青っぽく」見えます。逆に、地球から遠ざかる時期には波長が引き伸ばされて「赤っぽく」見えます。
視線速度法とは、観測者の視線の方向に対して星が近づいたり遠ざかったりする速度(視線速度)を、光の色(波長)のわずかなズレから精密に測り取る手法なのです。
人が走る速度を宇宙の彼方から測る
この方法がどれほど精密なものか、私たちの太陽系を例にしてスケール感を確認してみましょう。
太陽系で最も重い惑星である木星の重力は、太陽を「秒速約13メートル」で揺さぶっています。これは、人が全力疾走するくらいの速度です。 さらに小さな地球の重力となると、太陽を揺さぶる速度は「秒速約9センチメートル」しかありません。これはカタツムリの移動速度よりは速いですが、歩くよりもずっと遅いスピードです。
天文学者たちは、数十光年、数百光年も離れた宇宙の彼方にある恒星が、「人が走る程度の速度」で近づいたり遠ざかったりすることによって生じる、極めて微小な光の波長のズレを装置で読み取っています。この精緻な観測技術によって、見えない惑星の存在と、その惑星の「重さ(質量)」を割り出しているのです。
トランジット法と組み合わせる意味
視線速度法は、「トランジット法」と組み合わせることで、さらに強力な武器になります。
トランジット法では、星の光がどれくらい隠されたかによって、惑星の「大きさ(半径)」がわかります。 そして今回の視線速度法では、星がどれくらい強く振り回されたかによって、惑星の「重さ(質量)」がわかります。
「大きさ」と「重さ」の2つが揃うと、何が計算できるでしょうか。 答えは「密度」です。
密度がわかれば、その系外惑星が地球のような「岩石の惑星」なのか、それとも木星のような「ガスの惑星」なのかを推定することができます。生命が存在しうる環境を探る上で、これは非常に重要なステップとなります。

視線速度法は「光の波長変化」で説明できる
惑星は自ら光を放たないため、遠い宇宙の暗闇の中から直接見つけ出すことは困難です。 しかし物理法則を通せば、万有引力によって恒星が揺り動かされ、ドップラー効果によってその動きが光の波長の変化として地球に届くという構造が見えてきます。
だから、視線速度法は「恒星の光の波長変化を測ることで、見えない惑星の重力を可視化する構造」として説明できるのです。
今夜、瞬く星を見上げたとき、その光の色がほんのわずかに青や赤に変化しているかもしれないと想像してみてください。そこには、私たちには見えない未知の惑星が、星の光を揺らしている確かな証拠が隠されているのです。
参考文献
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