
広大な宇宙には、数え切れないほどの星(恒星)があり、その周りを回る惑星があります。 しかし、そのほとんどは、灼熱の地獄だったり、すべてが凍りつく極寒の世界だったりします。
私たちがいま暮らしている「地球」は、海があり、風が吹き、多くの命が溢れていますよね。 なぜ地球だけが、こんなにも生命にとって心地よい場所なのでしょうか?
その鍵を握るのが、天文学で「ハビタブルゾーン(Habitable Zone)」と呼ばれる領域です。 日本語では「生命居住可能領域」。今日は、この宇宙における「生命の特等席」について、少し深く考えてみたいと思います。
ちょうどいい「湯加減」の場所
ハビタブルゾーンを一言で表すなら、「水が液体のままで存在できる領域」のことです。
生命にとって最も重要な物質、それは水です。私たちが知る生命は、例外なく水の中で化学反応を起こしています。水が氷(固体)のままでも、水蒸気(気体)になってしまっても、私たちが知るような生命は生まれません。 「液体の水」として海を作れる温度、それが絶対条件なのです。
天文学の世界では、イギリスの童話にちなんで「ゴルディロックス・ゾーン」とも呼ばれます。 童話の中で、女の子が熱すぎるスープと冷たすぎるスープを避けて、「ちょうどいい」スープを選んだエピソードが由来です。
太陽系において、この「ちょうどいい」距離にあるのが、まさに地球なんですね。

お隣さんはどうなの? 金星と火星の運命
では、地球のお隣さんである「金星」と「火星」はどうでしょうか? 実は、この2つの惑星の運命を見ると、ハビタブルゾーンの厳しさがよく分かります。
- 金星(太陽に近すぎた): 地球よりも少しだけ太陽に近い金星。その「少し」が致命的でした。 海ができていたかもしれない時期もありましたが、暑さで蒸発し、分厚い雲が熱を閉じ込め、今では表面温度が400℃を超える灼熱の世界になってしまいました。
- 火星(太陽から遠すぎた): 逆に、少しだけ遠かった火星。 かつては水が流れていた痕跡が見つかっていますが、寒さと重力の弱さから、大気をつなぎ止めておくことができず、今は荒涼とした砂漠が広がっています(もちろん、地下にはまだ水があるかもしれません!)。
地球は、この「熱すぎず、寒すぎない」という、針の穴を通すような絶妙なバランスの上に成り立っているのです。
星の色で変わる「特等席」の位置
ハビタブルゾーンは、どこでも「太陽と地球くらいの距離」というわけではありません。 中心にある星(恒星)のタイプによって、その場所は大きく変わります。
- 青白く輝く巨大な星: キャンプファイヤーの巨大な炎を想像してください。熱すぎるので、かなり離れないと火傷しますよね。 こういう星の場合、ハビタブルゾーンはずっと遠くになります。ただ、このタイプの星は寿命が短く、生命が進化する前に燃え尽きてしまうことが多いと言われています。
- 赤くて小さな星(赤色矮星): 宇宙に一番多い、小さな赤い星。これは小さな炭火のようなものです。 暖まるためには、かなり近くに寄らなければなりません。 近すぎると、今度は星の重力の影響を強く受けすぎたり、強力なフレア(爆発)を浴びたりと、別の過酷な条件が待っています。
こうして考えると、太陽のような「穏やかで、ほどよい明るさの星」の、さらに「ちょうどいい距離」にいるということが、どれほど天文学的な確率か実感できます。
第2の地球は見つかるか?
現在、世界中の天文学者が、太陽系以外の星にもハビタブルゾーンにある惑星を探しています。 「ケプラー宇宙望遠鏡」や「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の活躍で、地球に似た環境を持つかもしれない候補がいくつも見つかっています。
例えば、「トラピスト1(TRAPPIST-1)」という星系には、ハビタブルゾーンの中に地球サイズの惑星が3つもあると言われています。 そこにはどんな空が広がり、どんな海が波打っているのでしょうか。あるいは、私たちとは全く違う姿をした生命が、夜空を見上げているかもしれません。
ハビタブルゾーンという言葉を知ると、何気なく飲んでいる一杯の水や、肌を撫でるそよ風が、宇宙の中でもとても特別なものに思えてきませんか?
広大な宇宙の暗闇の中で、水が液体のまま揺らめいている青い星。 私たちがここにいること自体が、いくつもの偶然が重なった奇跡なのかもしれません。
今夜は、そんな「奇跡の惑星」に住んでいることに感謝しながら、星空を眺めてみてはいかがでしょうか。

参考文献
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