天文学の歴史には、いくつか「革命の日」があります。 ガリレオが望遠鏡を空に向けた日。 そして、2015年9月14日。
アメリカにある巨大観測装置「LIGO」が、ある信号を捉えました。 それは、13億年前に二つのブラックホールが衝突して合体した瞬間の、時空の震えでした。

アインシュタインが予言してから100年。 アインシュタインが「理論的には存在するが、当時の技術では検出はほぼ不可能だろう」と考えていた重力波を、ついに人類が耳にした瞬間。 今日は、ノーベル賞に輝いたこの巨大装置と、日本のKAGRAとの意外な違いについてお話しします。
地上にある4kmの怪物
KAGRAは「地下」にありましたが、LIGOは「地上」にあります。 アメリカの広大な土地(ワシントン州とルイジアナ州の2箇所)に、どーんと建設されました。
その最大の特徴は「デカさ」です。 KAGRAの腕の長さが3kmなのに対し、LIGOは4km。 レーザーが走る距離が長ければ長いほど、感度は上がります。 「地下を掘るコストがない分、とにかくデカく作る」という、徹底した物量と精密工学を組み合わせた、アメリカらしいアプローチです。
しかし、地上はノイズだらけです。 風で木が揺れる音、遠くを走るトラックの振動、海の波……。 それらをキャンセルするために、LIGOは「世界最高峰の防振装置(多段振り子)」で鏡を吊るし、地面から浮いた状態を作り出しています。
なぜ「石英(ガラス)」なのか?
ここで、KAGRAとの決定的な違い、「鏡の材質」のお話です。
LIGOとKAGRAの違いは、単なる性能差ではありません。「どこで」「どんな材料で」「どうやってノイズと戦うか」という思想そのものが違うのです。
- KAGRA: 極低温に冷やすため、熱伝導が良い「サファイア」を使用。
- LIGO: 常温で使うため、透明度が極めて高い「合成石英(フューズド・シリカ)」を使用。
LIGOは「冷やさない」選択をしました。 その代わり、レーザーの出力を極限まで上げても耐えられる、不純物がゼロに近い最高級のガラスが必要でした。 この「合成石英」の鏡は、原子レベルで研磨され、地球上で最も滑らかな表面を持っています。
「冷やして熱雑音を消す日本」か、「デカさとパワーと最高級ガラスで押し切るアメリカ」か。 アプローチは違えど、目指す精度は同じ。このライバル関係が面白いところです。
なぜ2つあるのか?
LIGOは、アメリカ大陸の北西と南東に、約3000km離して「2台」作られました。 なぜ同じものを2つも作ったのでしょうか?
それは「嘘(ノイズ)」を見破るためです。 もし片方だけで「信号だ!」となっても、それは近くで木が倒れた振動かもしれません。 しかし、3000km離れた2台が「同時に」同じ信号を捉えたなら、それは宇宙から光の速さで届いた重力波である証拠になります。
そしてここに、イタリアの「VIRGO(バーゴ)」や日本の「KAGRA」が加わると、もっと凄いことができます。 「三角測量」です。 3台以上の耳があれば、「宇宙のあそこから音がした!」と方向を特定できるのです。 だからこそ、世界中に望遠鏡が必要なんですね。
新しい天文学の幕開け
LIGOの成功によって、私たちは「重力波天文学」という新しい扉を開けました。 これまでは「光」で見える星しか観測できませんでしたが、これからは「光を出さないブラックホール」同士の衝突や、星の死に際の声を聞くことができます。
最初の検出音は、Youtubeなどで聞くことができます。 「ヒュンッ」という短い音。 それは、宇宙の彼方で起きた激しい破壊のエネルギーが、13億年の旅を経て、地球の私たちに「届いたよ」と囁いた挨拶なのです。実際には人間の耳に聞こえる音ではありませんが、周波数を変換して「音」にしたものが、あの「ヒュンッ」です。
次はKAGRAの出番
LIGOは見事にその役割を果たし、伝説となりました。 しかし、LIGOの感度をさらに上げるには、「鏡の熱雑音」という壁が立ちはだかります。 常温である以上、分子の震えは止められないからです。
そこで世界の期待を集めているのが、最初から「極低温」で設計された日本のKAGRAの技術です。 LIGOの次世代機(LIGO Voyagerなど)は、日本の技術を取り入れて低温化する計画もあります。 先駆者LIGOと、追うKAGRA。 切磋琢磨しながら、人類の「耳」はますます良くなっていくでしょう。

参考文献
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