夜空に赤く輝く星、火星。 その不気味なほどの赤さから、古代の人々は「戦火」や「血」を連想し、ローマ神話の軍神「マルス」の名を与えました。
しかし、現代の科学が明らかにしたその「赤さ」の正体は、血や炎のように激しいものではありませんでした。 そして不思議なことに、この「赤い惑星」では、夕焼けの時間だけ空が「青く」染まるという、地球とは真逆の現象が起きることがわかっています。
今回は、火星の色にまつわる不思議な科学について解説します。
火星が赤いのは「錆びている」から
結論から言うと、火星が赤い理由は「星全体が錆びているから」です。
火星の地表は岩石や砂で覆われていますが、そこには鉄分が多く含まれています。この鉄分が、長い年月をかけて大気中の酸素と結びつき、酸化鉄(赤サビ)になりました。 つまり、雨ざらしにして赤茶けた自転車や、古びた釘と同じ状態です。
かつて火星には水や酸素が豊富にあったと考えられており、その名残として、星全体が酸化して赤く変色してしまったのです。 「戦いの神」という勇ましい名前を持つ星の正体が、実は「巨大な赤サビの玉」だったというのは、刀が錆びてしまったような、少し悲しい話かもしれません。
夕暮れ時、世界は「青」に包まれる
火星は昼間の空も、舞い上がった赤サビの塵(ちり)の影響で、ピンクやオレンジがかった色をしています。 ところが、日が沈む「夕焼け」の瞬間だけ、空の色が劇的に変化します。
NASAの探査機「キュリオシティ」などが撮影した画像には、太陽の周りが神秘的な「青色」に輝く夕暮れが写し出されています。
なぜ地球と逆なのか?(レイリー散乱とミー散乱)
地球の夕焼けは赤く、火星の夕焼けは青い。なぜ逆になるのでしょうか。 これは、大気中に漂う粒子の「大きさ」が違うため、光の散乱の仕方が変わるからです。
- 地球(レイリー散乱): 地球の大気分子は光の波長よりはるかに小さいため、波長の短い「青い光」を強く散乱させます(昼の空が青い理由)。しかし夕方は、光が長い距離を通るため青い光は散らばって消え、波長の長い「赤い光」だけが届きます。
- 火星(ミー散乱): 火星の大気には、常に細かな塵(酸化鉄の粒子)が舞っています。この粒子のサイズが光の波長と近いため、ここでは「青い光」が前方に散乱されやすくなる「ミー散乱」という現象が起きます。その結果、太陽の方向(夕日の周り)だけ、青い光が強く目に届くようになるのです。
まとめ
- 火星が赤いのは、地表の鉄分が酸化して「赤サビ」になっているから。
- 火星の夕焼けは、地球とは逆に「青く」見える。
- これは大気中の塵が起こす「ミー散乱」によって、青い光が強調されるため。
昼間は赤茶けた荒野が広がる火星ですが、一日の終わりには、地球の昼間のような静かな青色に包まれる。 もし人類が火星に移住したら、故郷の「青い空」を懐かしんで、夕日を眺めるようになるのかもしれません。
Image Credit: NASA

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