みなさんは夜空に赤く輝く「火星」を見上げたことはありますか? 望遠鏡で見ても、探査機から送られてくる写真を見ても、そこにあるのは荒涼とした砂漠と岩だらけの世界。 「水」なんて一滴もなさそうな、乾ききった惑星に見えますよね。
でも、もし私が「あそこには昔、地球と同じように川が流れ、湖が波打っていたんですよ」と言ったら、信じられますか?
今日は、そんな火星の地面に残された「水の記憶」についてお話ししましょう。 タイムマシンに乗ったつもりで、数十億年前の隣人の姿を覗きにいってみませんか?
赤い惑星は、かつて「青い惑星」だった?
今の火星は、平均気温がマイナス60度、気圧は地球の100分の1以下という、とても過酷な環境です。 コップ一杯の水を置いたとしても、すぐに凍りつくか、あるいは一瞬で蒸発して消えてしまうでしょう。
けれど、時計の針を30億年、40億年と巻き戻すと、景色はガラリと変わります。
科学者たちの研究によると、かつての火星には、厚い大気があり、雨が降り、川が流れ、広大な海があったかもしれない、そんな痕跡さえ残されています。 今の地球と同じような「青い輝き」を放っていた時代が、確かにあったのかもしれません。
では、なぜそんなことが分かるのでしょうか? 誰もその時代を見ていないのに。
その答えは、火星の「地形」が雄弁に語ってくれていました。
大地に刻まれた「水の流れたあと」
火星の表面を詳しく調べてみると、そこには風や火山だけでは説明のつかない、不思議な模様がたくさん残されています。

地面に広がる扇の形「三角州」
みなさんは、学校の地理で「三角州(デルタ)」という言葉を習ったことを覚えていますか? 川が海や湖に注ぎ込む場所で、運ばれてきた土砂が積もってできる、あの扇形(おうぎがた)の地形です。
実は、火星の「ジェゼロ・クレーター」という場所にも、これとそっくりな地形が見つかっています。
まるで、画用紙の上で絵の具を溶いた水をこぼしたような、見事な扇形。 これは、長い時間をかけて大量の水が流れ込み、土砂を運び続けなければ絶対にできない形です。
今ではすっかり干上がってひび割れた大地ですが、そこにはかつて、サラサラと流れる川の音が響いていたはずなのです。
角の取れた「丸い石ころ」の発見
もう一つ、決定的な証拠があります。 それは、火星探査車「キュリオシティ」が見つけた、何の変哲もない「小石」たちです。
火星の表面にある岩は、普通なら隕石の衝突などで割れた、角ばったゴツゴツしたものばかり。 ところが、ある場所で見つかった石は、まるで河原の石のようにツルツルと丸みを帯びていました。
料理をする方ならイメージしやすいかもしれません。 角切りの野菜をスープでコトコト煮込むと、煮崩れて角が丸くなりますよね? 石も同じです。川の流れの中で、何度も転がり、ぶつかり合うことで、長い年月をかけて「角が取れる」のです。
その丸い石たちは、「ここには、私の角を削り取るほどの激しい流れがあったんだよ」と、静かに私たちに教えてくれているのです。

なぜ、水は消えてしまったの?
そんなに豊かだった水は、いったいどこへ行ってしまったのでしょうか。 神隠しにあったわけではありません。理由は、火星という惑星の「サイズ」と「運命」にありました。
惑星のブランケットが剥がされて
火星は地球に比べて半分ほどの大きさしかなく、重力も弱い星です。 そのため、惑星を包み込んでいる「大気」というブランケットを、自分の力で繋ぎ止めておくことが難しかったのです。
さらに運の悪いことに、火星は早い段階で「磁場」というバリア機能を失ってしまいました。 その結果、太陽から吹き付ける強力な風(太陽風)が、火星の大気を少しずつ、でも確実に宇宙空間へと吹き飛ばしてしまったのです。
まるで、寒い冬の夜に布団を剥ぎ取られてしまったかのように。 大気という守りを失った火星からは、水が蒸発し、宇宙へ逃げ出し、あるいは地下深くへと凍りついて隠れてしまいました。

まとめ:乾いた川底が教えてくれること
かつては水をたたえ、もしかしたら生命の息吹さえあったかもしれない火星。 今、私たちが望遠鏡で見上げるその赤くて乾いた姿は、地球の「ありえたかもしれない未来」の姿なのかもしれませんし、あるいは別の道を歩んだ「双子の兄弟」の姿なのかもしれません。
そう思うと、あの赤い光が、なんだか少し切なく、そして愛おしく見えてきませんか?
今夜、もし晴れていたら、ぜひ夜空を見上げてみてください。 何十億年もの昔、そこで波の音がしていたことを想像しながら。
それでは、今夜も素敵な星空を。 また、この場所でお会いしましょう。

参考文献
- NASA|Delta-Like Fan On Mars Suggests Ancient Rivers Were Persistent
- NASA|Mars Science Laboratory: Curiosity Rover
- NASA|Curiosity Rover Science
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