2012年、NASAがある変わった望遠鏡を宇宙へ送り出しました。その名は「NuSTAR(ニュースター)」。 正式名称は「Nuclear Spectroscopic Telescope Array(核分光望遠鏡アレイ)」と言います。……なんだか舌を噛みそうな名前ですね。
このNuSTAR、見た目がちょっとユニークなんです。 打ち上げられるときは小さく小さく畳まれているのですが、宇宙空間に着くと、まるで折り紙を開くように、あるいはパーティーで使う「吹き戻し(ピロピロ笛)」のように、びよーんと長いマスト(柱)を伸ばします。その長さ、なんと10メートル(スクールバス1台分)。
なぜこんなに首を長くする必要があったのでしょうか? それは、彼が捉えようとしている光が、とても扱いづらい「じゃじゃ馬」だからです。
「硬X線」という特別な光
NuSTARが狙っているのは、X線の中でも特にエネルギーが高い「硬X線」と呼ばれる光です。
みなさんも病院でレントゲンを撮ったことがあると思います。あれもX線の一種です。 普通のX線(軟X線)が皮膚を通り抜けるくらいのパワーだとすれば、硬X線はもっと強力。分厚いガスやチリの雲さえも突き抜けてやってきます。
これまで、この硬X線を宇宙できれいに「ピント合わせ」して撮影するのは至難の業でした。エネルギーが強すぎて、レンズや鏡を突き抜けてしまうからです。 そこでNuSTARは、タマネギやバウムクーヘンのように何重にも重ねた特殊な鏡を使い、長い距離(焦点距離)をかけて、ようやくこの光を捕まえることに成功したのです。
見えない宇宙の姿を暴く
宇宙の「骨」を見る

「硬X線が見える」ということは、どういうことなのでしょうか? 少し乱暴な例えですが、普通の望遠鏡が「人の顔(皮膚)」を見ているとしたら、NuSTARは「頭蓋骨(骨)」を見ているようなものです。
宇宙には、分厚いチリやガスのカーテンに隠れて、普通の望遠鏡では中身が見えない場所がたくさんあります。 でも、NuSTARの目にかかれば、そのカーテンの奥にある「骨組み」や「芯」の部分が丸見えになってしまうのです。
ブラックホールの「悲鳴」を聞く
特にNuSTARが得意とするのが、ブラックホールの観測です。 ブラックホール自体は光を出さない真っ暗な天体ですが、その周りでは、吸い込まれていくガスがものすごい猛スピードで回転し、摩擦で超高温になっています。
このとき、ガスは「助けてくれー!」と叫ぶかのように、強烈なX線を放ちます。 NuSTARは、この断末魔の叫び(硬X線)を捉えることで、分厚いチリの奥に潜んでいる「隠れブラックホール」を次々と見つけ出しているのです。
星の死骸に残された「チタン」の地図
もう一つ、NuSTARが見せてくれた美しい世界があります。 星が寿命を終えて大爆発したあと(超新星残骸)の姿です。
カシオペヤ座Aという有名な超新星残骸があるのですが、NuSTARはそこで「チタン44」という放射性物質がどこに散らばっているかを地図にしました。 これは、星が爆発したその瞬間の激しさを物語る「化石」のようなもの。

まるで花火大会が終わったあとの夜空に、火薬のにおいが残っているように。 NuSTARは、星が最期に放ったエネルギーの余韻を、色鮮やかに私たちに見せてくれているのです。
まとめ
NuSTAR(ニュースター)という名前、新しい星(New Star)とかけているようで、なんだか素敵なネーミングですよね。
今夜、もし晴れていたら、少しだけ窓を開けて夜空を見上げてみてください。 静かに輝く星々の隙間で、実はとてつもないエネルギーの嵐が吹き荒れ、ブラックホールがガスを飲み込み、星の破片が飛び散っている……。
そんな「激しい宇宙」の姿を、今この瞬間も、長い首を伸ばしたNuSTARが地球のどこかで見つめているはずです。 そう想像すると、いつもの静かな星空が、少しだけ賑やかなパレードのように感じられませんか?
参考文献
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