夜空に赤く輝く火星。 その周りには、2つの小さな月が回っています。 名前は「フォボス(Phobos)」と「ダイモス(Deimos)」。

優雅な地球の月や、宝石のような土星の衛星とは違い、彼らはとても小さく、形も歪です。 そして何より、つけられた名前の意味が物騒です。 今日は、そんな「恐怖」の名を持つ月と、そこへ向かおうとしている日本の探査機の物語をお話ししましょう。
衛星の正体:宇宙を漂うジャガイモ兄弟
まず、彼らの姿を見てみましょう。 「月」と聞いて想像するような、綺麗な丸い形ではありません。 表面はボコボコで、まるで「巨大なジャガイモ」のような形をしています。
- 兄:フォボス(直径約22km)
- 弟:ダイモス(直径約12km)
東京都がすっぽり入るくらいの、とても小さな岩の塊です。 天文学者たちは、彼らが「火星で生まれた月」ではなく、火星と木星の間にある「小惑星帯」から弾き飛ばされ、たまたま火星の重力に捕まってしまった「迷子の小惑星」ではないかと考えています。 (※現在、日本のMMX計画がこの説を確かめようとしています!)
神話:戦いの神に従う「恐怖」と「パニック」
なぜ、こんな怖い名前がついたのでしょうか? それは、親分である火星(マーズ)が、ローマ神話の「戦いの神」だからです。
戦場には、常に「恐怖」と「混乱(パニック)」がつきまといます。 そこで、火星の周りを回る2つの月には、戦いの神の息子たちである、
- フォボス(Phobos)=「恐怖」
- ダイモス(Deimos)=「恐慌(パニック)」
という名前が与えられました。
ちなみに、「フォビア(恐怖症)」という英語は、このフォボスの名前から来ています。 夜空を見上げるとき、火星のそばにはいつも恐怖とパニックが潜んでいる……神話を知ると、赤い星が少し不気味に見えてきませんか?
運命:兄はいずれ墜落する
名前だけでなく、兄フォボスには「恐ろしい運命」が待っています。 実はフォボスは、少しずつ、しかし確実に火星に向かって落ちているのです。
100年に約1.8メートルずつ火星に近づいており、計算ではあと数千万年後には、火星の重力に耐えきれずに空中で粉々に砕け散るか、火星の表面に激突すると言われています。 砕け散った場合、フォボスの破片は火星の周りに広がり、土星のような「リング(輪)」になると予想されています。
「恐怖」という名の月は、自らの身を砕いて、親である火星に美しいリングをプレゼントして一生を終えるのです。 なんとも切ない、自己犠牲の物語だと思いませんか?
未来:日本がサンプルを持ち帰る!
さて、ここからが私たちにとって一番の注目ポイントです。 今、この「恐怖の月」フォボスに向かって、日本のJAXAが探査機を飛ばそうとしています。 その名も「MMX(エムエムエックス)」計画。
2020年代後半の打ち上げを目指し、フォボスに着陸して、表面の砂や石を採取し、地球に持ち帰る(サンプルリターン)という、世界初の壮大なミッションです。
もしこれが成功すれば、 「彼らは本当に迷子の小惑星なのか?」 「火星に生命がいた痕跡が、フォボスの砂に混ざっていないか?」 といった宇宙の謎が一気に解明されるかもしれません。
「恐怖」の月が、私たちに「知識」という希望をもたらしてくれる。 数年後、ニュースで「MMX」の名前を聞いたら、ぜひこのジャガイモ兄弟のことを思い出して応援してくださいね。
見た目はジャガイモ、名前は恐怖、そして運命は墜落。 火星の月たちは、華やかさこそありませんが、どの衛星よりもドラマチックな「生い立ち」と「未来」を持っています。
次に夜空で赤い火星を見つけたら、そのすぐそばで、運命に抗いながら回り続ける小さな兄弟に思いを馳せてみてください。


参考文献
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