なぜ逆向きに回るのか? 海王星に「誘拐」された巨大衛星トリトンの悲劇

ここは太陽から約45億キロメートル離れた場所。 海王星(Neptune)の領域です。 ここから見る太陽は、もう暖かさを感じることはなく、ただの「突き刺すように明るい星」にしか見えません。

そんな極寒の青い惑星の周りを、一つの巨大な衛星が回っています。 その名は「トリトン(Triton)」。 彼は、太陽系の他のどの衛星とも違う、たった一つの「ルール違反」を犯しているのです。

Triton
Image Credit: NASA/JPL/USGS

目次

最大の特徴:逆走する巨大衛星

トリトンを見て、天文学者たちは目を疑いました。 あいつ、逆向きに走ってないか?

太陽系の大きな衛星たちは皆、親である惑星が自転するのと同じ方向(反時計回り)に回っています。 これは、惑星が生まれた時に同じガスの渦から生まれた「家族」である証拠です。

しかし、トリトンだけは違います。 海王星の自転とは「逆方向(時計回り)」に公転しているのです。 これは、太陽系の大型衛星の中でトリトンだけに見られる異常な特徴です。

なぜ逆走しているのか? その答えは一つしかありません。 トリトンは、海王星で生まれた家族ではなく、「よそから来て、無理やり捕まえられた(捕獲された)他人」だからです。


出生の秘密:冥王星の兄弟?

では、トリトンはどこから来たのでしょうか? 科学者たちは、彼がかつては「冥王星」のような準惑星として、太陽系外縁部(カイパーベルト)を自由に旅していたと考えています。

成分や大きさを調べると、トリトンと冥王星はまるで双子のようにそっくりです。 おそらく、宇宙を旅していた時にうっかり海王星に近づきすぎてしまい、その強力な重力に捕まってしまったのでしょう。 「自由な旅人」から「囚われの身」へ。 逆向きの公転は、無理やり軌道を変えられた時の名残であり、彼のささやかな反抗心のようにも見えます。


地質の驚き:極寒の「黒い噴水」

トリトンの表面温度は、マイナス235度。 絶対零度(マイナス273度)に近い、全てのものが凍りつく死の世界です。

しかし、1989年に探査機ボイジャー2号が近づいた時、信じられない光景を撮影しました。 凍りついた地表から、高さ8キロメートルにも及ぶ「黒い煙」が噴き上がっていたのです。

これは火の煙ではなく、「液体窒素」の間欠泉です。 地下で温められた窒素がガスとなり、黒い砂埃と一緒に猛烈な勢いで吹き出しているのです(クライオボルケーノ=氷の火山と呼ばれます)。

極寒の地で、今もなお活発に活動し続けるトリトン。 「捕まったけれど、まだ死んではいないぞ」という生命力を感じさせる光景です。


未来:破壊され、美しいリングになる

最後に、火星の衛星フォボスと同じく、トリトンにも切ない未来が待っています。

逆向きに回っているせいで、トリトンは少しずつブレーキがかかり、海王星に近づいています。 遠い未来、彼は海王星の重力に耐えきれずに粉々に砕け散ると予想されています。

しかし、物語はそこで終わりません。 砕け散ったトリトンの破片は、海王星の周りに広がり、あの土星にも負けないくらい「巨大で美しいリング」になると言われています。 かつて自由な星だった彼は、最後にその身を捧げて、海王星を太陽系で一番美しい惑星へと飾り付けるのです。


逆走する軌道、冥王星との瓜二つの姿、そして氷の噴水。 トリトンは、太陽系の秩序にはまらない「アウトロー(はみ出し者)」の魅力に溢れています。

もし望遠鏡で海王星を見ることがあったら(かなり難しいですが!)、その横で逆向きに回り続ける孤独な衛星のことを思い出してください。 彼の反骨精神と数奇な運命は、私たちに「どこ出身だろうと、自分らしく輝けばいい」と教えてくれているのかもしれません。

参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次