「宵の明星」あるいは「明けの明星」として親しまれる金星。 大きさも重さも地球とそっくりで、よく「地球の双子」なんて呼ばれますよね。
でも、この双子たち、性格はまるで正反対です。 地球が生命溢れる青い星なら、金星は灼熱の荒野が広がる不毛の星。
なぜ、これほどまでに運命が分かれてしまったのでしょうか。 その鍵を握っているのが、地球にはあって、金星にはない「見えない盾」の存在です。
今日は、金星が失ってしまった(あるいは最初から持てなかった)この「盾」と、星の奥深くで眠る「心臓」のお話をしましょう。

地球を守る「見えない盾」
私たちが普段何気なく使っているコンパス(方位磁針)。 北を指すのは、地球そのものが一つの巨大な磁石だからです。
この「地球の磁場」は、ただの道案内ではありません。 太陽から吹き付ける危険な「太陽風」や宇宙放射線を跳ね返し、私たち生命を守ってくれる、最強のバリア(盾)なのです。
もしこの磁場がなくなったら、地球の大気は太陽風によって少しずつ剥ぎ取られ、私たちも生きてはいけないでしょう。
しかし不思議なことに、地球とそっくりの大きさを持つ金星には、この磁場がほとんど存在しません。 コンパスを持って金星に降り立っても、針はくるくると回るだけで、どこも指さないのです。
惑星を磁石にする「3つのレシピ」
なぜ金星には磁場がないのでしょうか? それを解き明かすには、そもそも「どうやって惑星が磁石になるのか」を知る必要があります。
専門的には「ダイナモ理論」と呼ばれますが、難しく考える必要はありません。 美味しいホットミルクティーを作るのにレシピがあるように、惑星が磁石になるのにも「3つの材料」が必要なのです。
- 電気を通す液体(とろとろの金属)
- 回転(くるくる回る)
- 対流(熱の移動)
地球の中心(コア)には、ドロドロに溶けた鉄があります(材料1)。 地球は1日1回、元気に自転しています(材料2)。 そして、コアの熱が外へ逃げようとして、溶けた鉄がぐるぐると対流しています(材料3)。
この3つが揃って初めて、磁場というバリアが生まれるのです。
容疑者1:あまりにも遅い自転
金星に磁場がない理由として、最初に疑われたのは「回転」でした。
地球が24時間で一回転するのに対し、金星の自転はなんと「約243日」。 のんびりと回っています。
「回転が遅すぎるせいじゃないか?」 長い間、そう考えられてきました。
しかし、最近の研究では「それだけが理由ではない」と言われています。 実は、金星よりずっと小さく、回転も遅い(59日)水星には、弱いながらも磁場があるからです。 どうやら、金星の発電機が動かない理由は、もっと別のところにありそうです。

容疑者2:熱が逃げられない「圧力鍋」
現在の天文学で最も有力視されているのが、「対流」の問題です。
お鍋でお湯を沸かすところを想像してみてください。 下から火にかけると、熱せられたお湯は上へ、冷めたお湯は下へと動き回りますよね。これが対流です。 対流が起きるためには、「下(コア)が熱くて、上(マントル)が冷たい」状態を保ち、熱をどんどん逃がしてあげる必要があります。
地球の場合、「プレートテクトニクス(大陸移動)」という仕組みが、お鍋のフタを開ける役割を果たしています。 地面が動くことで地球内部の熱を宇宙空間へ効率よく捨てているため、中心核の温度差が保たれ、対流が起き続けるのです。
しかし、金星にはプレートテクトニクスがありません。 いわば、分厚いフタをして、さらに毛布でくるんだ「圧力鍋」のような状態です。
これでは、どんなに中心が熱くても、その熱の逃げ場がありません。 熱が逃げなければ、内部の温度は均一になり、対流(お湯の動き)は止まってしまいます。
金星の心臓(コア)は、冷え固まっているわけではありません。 むしろ、熱すぎて、熱を逃がせなくて、窒息してしまった……そんな状態に近いのかもしれません。

火星との決定的な違い
もうひとつ、磁場を持たない惑星として有名なのが火星です。 しかし、火星と金星の事情は少し違います。
火星は体が小さかったため、お茶がすぐに冷めるように、中心核が冷え切って固まってしまいました。 いわば「凍りついた心臓」です。
対して金星は、地球と同じくらいの大きさがありながら、熱を逃がす仕組みを持てなかった「熱すぎる心臓」。 原因は違えど、どちらも磁場という盾を失い、運命が変わってしまいました。

まとめ
地球、金星、火星。 兄弟のように生まれた3つの惑星ですが、 「ちょうどいい大きさ」と「熱を逃がす仕組み」を持っていたのは、奇跡的にも地球だけでした。
金星の空には、オーロラが輝くこともありません。 ただ、強烈な太陽風をその身に直接受け続けています。
もし今夜、西の空に金星を見つけたら、思い出してあげてください。 あの美しい輝きの下には、熱を抱え込んだまま動くことのできない、孤独な心臓が眠っていることを。
そして、私たちの足元で今も力強く鼓動し、見えない盾で私たちを守り続けている地球の心臓に、少しだけ感謝したくなりますね。
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