みなさんは、スマートフォンを手放せない生活をしていますか? 私はそうです。朝起きて天気をチェックし、電車ではSNSを眺め、地図アプリで目的地へ向かう。 もはや、電気と通信がないと「迷子」になってしまう自信があります。
でも、そんな私たちの便利な生活を一瞬で奪い去るかもしれない「嵐」が、空の彼方から狙っているとしたら……どうでしょう?
その嵐の名前は、「太陽嵐(たいようあらし)」。
台風でも地震でもない、宇宙から降り注ぐ電気の嵐です。 今日は、もしも太陽が本気を出したとき、私たち人類はその猛攻に勝てるのか? という、ちょっとスリル満点なお話をしましょう。

太陽からの「ご挨拶」は、時に激しい

私たちの母なる太陽。いつもは優しく地球を照らしてくれていますが、実はかなり気性の荒い一面を持っています。
太陽の表面では、時々「太陽フレア」と呼ばれる巨大な爆発が起きています。 これは例えるなら、太陽の「くしゃみ」のようなもの。 でも、その威力は桁違いです。たった一回のくしゃみで途方もないエネルギーを吐き出します。
そして、その爆発に伴って、電気を帯びたガスや磁気の塊が放出されることがあります。 これが地球に直撃した状態が「太陽嵐」です。
普段は、地球が持っている「磁場」というバリアが私たちを守ってくれています。 でも、あまりに強烈な嵐が来ると、そのバリアが押しつぶされ、私たちの生活圏まで影響が及んでしまうのです。

1859年の悪夢。「キャリントン・イベント」
「電気が消えるくらいでしょ?」 そう思うかもしれません。でも、歴史に残る最悪の太陽嵐は、そんな生易しいものではありませんでした。
1859年、まだ電球も普及していない時代のことです。 ある日突然、世界中の空が真っ赤なオーロラに包まれました。 ハワイやカリブ海といった南国でさえ、新聞が読めるほど明るいオーロラが出現したといいます。
美談のように聞こえますが、当時のハイテク機器だった「電信(モールス信号)」の世界は大パニックでした。 電線に勝手に電気が流れ出し、電信技師が感電したり、火花が散って電信局が火事になったりしたのです。
これを「キャリントン・イベント」と呼びます。 もし、現代のハイテク社会でこれと同じことが起きたら……想像するだけで背筋が凍りませんか?

人類は、太陽嵐に「勝てる」のか?
さて、ここからが本題です。 もし明日、キャリントン級の太陽嵐が来るとしたら、私たちは勝てるのでしょうか? 巨大なバリアを展開して、太陽嵐を跳ね返す……なんてことは、残念ながらSF映画の中でしかできません。
結論から言うと、人類は太陽嵐に「勝てません」。 自然の圧倒的なエネルギーの前では、私たちは無力です。
でも、「負けない(生き残る)」ことはできます。 そのための唯一の戦法。それは、「逃げるが勝ち」です。
作戦1:コンセントを抜いて、嵐をやり過ごす
太陽嵐が怖いのは、長い送電線に「誘導電流」という、予期せぬ巨大な電気が流れ込んでしまうこと。これが変圧器を焼き切り、大規模な停電を引き起こします。
ならば、どうすればいいか? 答えはシンプルです。「変圧器が壊れる前に、電気を止めてしまえばいい」のです。
電力会社は、太陽嵐の警報を受け取ると、送電網の出力を下げたり、わざと一部を遮断したりして、過剰な電気が流れないように調整します。 いわば、台風が来るときに家の雨戸を閉めるのと同じ。 「一時的な停電」を自ら受け入れることで、「設備の完全破壊(長期的な停電)」を防ぐのです。
作戦2:人工衛星たちの「冬眠」
宇宙空間にいる人工衛星たちは、大気という守りがないため、太陽嵐の直撃を食らいます。 精密機器にとって、放射線の嵐は致命的です。
そこで、危険な嵐が来るとわかると、衛星たちは「セーフモード」に入ります。 重要な観測機器の電源を切り、壊れにくい最小限の機能だけを残して、嵐が過ぎ去るのをじっと丸くなって待つのです。 まるで、冬眠するクマのように。

勝利の鍵は「早期発見」

「逃げる」ためには、嵐が来ることをいち早く知る必要があります。 不意打ちは防げませんが、予告があれば対処できます。
そのために、人類は太陽を24時間365日、監視し続けています。 地球と太陽の間にある「ラグランジュポイント(L1)」という特等席には、SOHOやDSCOVRといった監視衛星が浮かんでいます。
彼らは、太陽がくしゃみをした瞬間を見逃しません。 「フレア発生! 地球到達まであと〇〇時間!」 そうやって地球に警報を送ってくれる、頼れる「宇宙の天気予報士」なのです。

まとめ
人類は太陽嵐を止めることはできません。 でも、科学の力で「予報」し、知恵を使って「回避」することはできます。
真正面から戦って勝つのではなく、うまく受け流して共存する。 それこそが、偉大な自然に対する人類の賢い「勝利」の形なのかもしれません。
もしニュースで「大規模な太陽フレアが発生しました」と聞いたら。 「ああ、今ごろ人工衛星たちは身を縮めて頑張っているんだな」と応援してあげてください。 そして、もしかしたら夜空には、太陽からの激しい贈り物が、美しいオーロラとなって届くかもしれません。
電気が消えたら、星を見るチャンス。 そう思えるくらいの余裕を持って、宇宙の天気と付き合っていきたいですね。
参考文献
- NASA|The Difference Between CMEs and Flares
- NASA|Solar Storms and Flares
- NASA|NASA-enabled AI Predictions May Give Time to Prepare for Solar Storms
- NASA|In 1989, A Massive Blackout Left Millions without Power for Twelve Hours
- ESA|SOHO Overview
- NASA|ACE
- NASA|DSCOVR
- NASA|What is Space Weather?
- NASA|GOES Satellite Network
コメント