みなさんは、学校の理科の授業で「エネルギー保存の法則」という言葉を聞いたことはありますか? 「入ってきたエネルギー以上に、出るエネルギーが大きくなることはない」という、物理学の絶対的なルールです。
ところが今月、ヨーロッパの天文学者たちが、この宇宙の大原則に「待った」をかけるような、とんでもない星を見つけてしまったのです。 教科書を書き換えるかもしれない、そのミステリアスな星の正体とは?
教科書を書き換える星。730光年先で見つかった「ありえない衝撃波」の謎
730光年先の「死に神」が見せた奇妙な光

今回、舞台となるのは地球から約730光年離れた場所にある「RX J0528+2838」という星です。 名前が少し機械的で覚えにくいので、ここでは「J0528」と呼びましょう。
この星は、冬の夜空で輝く「おうし座」の方角にあります。 主役は、太陽のような恒星が寿命を終えて燃え尽きた「白色矮星(はくしょくわいせい)」。 かつての輝きを失った、いわば「星の死骸」です。
しかし、この死んだはずの星が、なぜか生きている星以上に激しく暴れていたのです。 ESO(ヨーロッパ南天天文台)の超大型望遠鏡VLTが捉えたのは、この星の周囲に広がる「謎の衝撃波」でした。

閉まっているはずの店から、料理の匂いがする?
白色矮星がパートナーの星からガスを奪い取るとき、通常は「降着円盤」というガスの円盤を作ります。 お風呂の栓を抜いたときに水が渦を巻くように、ガスがくるくると回りながら星に落ちていくのです。
しかし、この「J0528」には、ある決定的な問題がありました。 それは、磁石の力が強すぎること。 その強さはなんと40メガガウス以上。地球の磁場の数千万倍という凄まじい強さです。
これほど磁場が強いと、落ちてきたガスは磁力に弾かれてしまい、円盤を作ることができません。 いわば、レストランの入り口に鉄のシャッターが降りているような状態です。 「ガス(食材)が入っていけない」のですから、「衝撃波(料理)」ができるはずがありません。
それなのに、観測データははっきりと示していました。 そこには確かに、巨大な衝撃波が存在していたのです。
100円入れて、340円のお釣りが来る自販機
さらに天文学者たちを頭を抱えさせたのが、「エネルギーの計算が合わない」という問題です。
百歩譲って、なんらかの方法でガスが落ちていたとしましょう。しかし、そのガスが持つエネルギーを、どれほど効率よく放出したとしても、観測された衝撃波の強さには、どうしても届かない のです。
例えるなら、「100円玉を入れた自動販売機から、なぜか想定よりずっと高価なジュースが出てきた」ようなもの。物理学の世界では、無からエネルギーが生まれることはありません。
それなのに、この星のまわりでは、説明のつかない“余剰のエネルギー”が存在している のです。
しかも観測データからは、この衝撃波が 少なくとも数百年から1000年規模で存在してきた 可能性が示されています。つまりこれは、一瞬の爆発や偶然の出来事ではなく、長い時間をかけて維持されてきた、持続的な現象 なのです。
「わからない」があるから、宇宙は面白い
一体、この余分なエネルギーはどこから来ているのでしょうか。研究チームも、現時点では 「既存の理論だけでは説明できない」 としています。
もしかすると、私たちがまだ十分に理解していない磁場と物質の相互作用 が、想像以上に大きな役割を果たしているのかもしれません。
あるいは、極限環境における物理現象が、私たちの描いてきたシンプルなモデルを超えている可能性もあります。
「計算が合わない」。それは科学者にとっては頭の痛い問題ですが、私たちにとっては、宇宙がまだ語り尽くされていない証でもあります。
この小さな白色矮星は、“宇宙には、まだ私たちの理解が及ばない仕組みがある”という事実を、静かに突きつけているのかもしれません。
まとめ
今夜、もし晴れていたら、南の空高く昇る「おうし座」を見上げてみてください。 肉眼では見えませんが、その方向には、物理学者たちを困らせている小さな「あまのじゃく」な星が潜んでいます。
冷たい夜風の中で星を見上げるとき、 「あそこで今も、人類の知恵を超えた何かが起きているんだな」 と想像するだけで、いつもの星空が少しだけミステリアスに見えてきませんか?
参考文献
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