夜空を見上げれば、そこには当たり前のように「月」が輝いています。 あまりに身近すぎて、私たちは普段、月のありがたみを感じることはありません。
しかし、もし最初から地球に月がなかったとしたら? 私たちの世界は、今とは全く違う姿をしていたはずです。 夜が暗いだけではありません。猛烈な風が吹き荒れ、1日が短く、もしかすると人類すら誕生していなかったかもしれないのです。
今日は、そんな「月なき地球(もしもの世界)」をシミュレーションしてみましょう。

狂ってしまう季節
月がなくなって一番困るのは、実は「夜が暗いこと」ではなく、「季節が狂うこと」です。
地球は今、23.4度の傾き(地軸)を保ちながら回っています。 なぜ、独楽(コマ)のように倒れずにこの角度を維持できているのか? それは、すぐ横にある「月」という巨大な重りが、地球の首根っこを掴んで安定させてくれているからです(スタビライザー効果)。
もし月がなかったら、地球は火星と同じ運命を辿っていたでしょう。 火星の解説でお話しした通り、月を持たない火星の地軸は、10度〜60度の間で激しく変動しています。
地球も月がなければ、ある時は北極が真横を向いて赤道直下まで氷河に覆われ、ある時は灼熱地獄になる……そんな極端な気候変動を数万年ごとに繰り返していたはずです。 安定した「四季」があるのは、月のおかげなのです。
1日はたったの「8時間」
次に変わるのは「時間」です。 現在、地球の1日は24時間ですが、月がなければ「6時間〜8時間」くらいになっていたでしょう。
月は、地球の海を引っ張り、「潮の満ち引き」を起こしています。 この海水の動きが、海底との摩擦(潮汐摩擦)を生み、そのブレーキ効果で地球の自転をゆっくりと遅くしてきました。 (※フィギュアスケート選手が手を広げて回転を遅くするイメージです)
もしこのブレーキ役がいなければ、地球は生まれた当時の猛スピード(高速回転)で回り続けていたはずです。 「朝起きて、仕事をして、寝る」というサイクルが8時間で終わる世界。忙しすぎて目も回りそうです。
吹き荒れるスーパーウィンド
自転が速いということは、「風」も変わります。 木星や土星(自転が速い惑星)を見れば分かる通り、自転スピードが速い惑星の大気は、強烈な横風となって吹き荒れます(コリオリの力などが関連しています)。
もし地球が8時間で一回転していたら、地上には常に数十メートル毎秒級、場所によっては100m/sに達する暴風が吹き荒れていたかもしれません。 そんな世界では、背の高い木は育たず、私たちのような直立歩行する動物も、風に飛ばされないように地面を這いずっていたでしょう。
生命は上陸できたか?
そして最大のポイントは「生命の進化」です。 月がいなくなると、潮の満ち引き(干満差)は現在の3分の1ほどに激減します(太陽の重力分だけになります)。
太古の昔、海で生まれた生命が陸に上がるきっかけになったのが、「干潟(ひがた)」だと言われています。 満潮のときは海になり、干潮のときは陸になる場所。 ここで取り残された魚たちが、肺呼吸を獲得し、手足を獲得して陸を目指しました。
もし月がなく、大きな干満差がなければ、広大な干潟は生まれませんでした。 生命はずっと海の中だけで過ごし、陸上は静寂に包まれたままだったかもしれません。 私たちが今ここにいるのは、月が海を揺らし続けてくれたおかげなのです。
奇跡のダブル・プラネット
地球の衛星である「月」は、母星(地球)のサイズに対して異常なほど巨大です。 これほど大きな衛星を持つ岩石惑星は、太陽系では地球だけです。 そのため、地球と月は「二重惑星(ダブル・プラネット)」と呼ばれることもあります。
月はただの夜の照明ではありません。 地球が地球でい続けるための、巨大なブレーキでした。
参考文献
- J. Laskar et al., Stabilization of the Earth’s obliquity by the Moon, Nature 361, 615-617 (1993).
- 国立科学博物館|干潮・満潮はどうして起こるのですか?
- AIP|What Would Happen If There Were No Moon?
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