ハービッグ・ハロー天体とは?|原始星が放つジェットと衝撃波の正体

夜空の星は、今夜も静かに輝いています。しかし宇宙のどこかでは、これから星になろうとしている天体が、まったく静かではない誕生の瞬間を迎えています。

「ハービッグ・ハロー天体」という名前を聞いたことがありますか。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像には、暗い星雲の中から細長い光の帯が上下に伸びているものが写っています。あの光の正体は何か。この記事では、その仕組みを順を追って解説します。

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Image Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)/Hubble-Europe (ESA) Collaboration, D. Padgett (GSFC), T. Megeath (University of Toledo), and B. Reipurth (University of Hawaii)

目次

ハービッグ・ハロー天体とは

まず定義から始めましょう。

ハービッグ・ハロー天体(HH天体):生まれたばかりの星(原始星)が噴き出したガスのジェットが、周囲の星間ガスに衝突して衝撃波を起こし、発光している領域のこと。

1950年代に、アメリカのジョージ・ハービッグとメキシコのギリェルモ・ハローという二人の天文学者が独立して発見したことから、この名前がつきました。

光っているのは原始星そのものではありません。原始星が吹き飛ばしたガスが、周囲の静かなガス雲に衝突している場所です。天体写真で見る細長い光は、衝撃波の痕跡そのものです。


なぜ原始星はジェットを噴き出すのか

原始星が誕生する過程を思い出してください。星間分子雲が重力で収縮を始めると、中心に向かって落ちていくガスとチリは「原始惑星系円盤」と呼ばれる平たい回転円盤を形成します。

この円盤からガスが中心の原始星に落ち込む際、原始星の強力な磁場が働いて、ガスの一部を円盤の上下方向(自転軸に平行な方向)へ猛烈な速さで吹き飛ばします。これが「双極ジェット」と呼ばれる現象です。双極とは「上下の二方向」という意味で、だからこそハービック・ハロー天体の写真では光が上下に伸びて見えるのです。

ジェットのスピードは毎秒数百キロメートルにもなります。


ジェットはどうやって光るのか

ジェットそのものは、遠くから見ても光として見えるとは限りません。光として見える現象が起きるのは、ジェットが周囲のガス雲に衝突した場所です。

超高速のガスが静止したガス雲に突き込むと、強烈な「衝撃波」が発生します。衝撃波とは、物質が超音速で圧縮されるときに生じる急激な圧力・温度の変化のことです。飛行機が音速を超えたとき衝撃波が生じるのと同じ仕組みが、宇宙スケールで起きています。

衝撃波によって数千〜数万度にまで加熱されたガスは、その後冷える過程で光を放出します。これがハービッグ・ハロー天体として観測される光の正体です。つまり、「高速ジェット→衝突→衝撃波→加熱→発光」という連鎖の末端が、私たちの目に届いています。


数千年で姿が変わる天体

ハービッグ・ハロー天体には、もう一つ注目すべき特徴があります。その変化のスピードです。

星の寿命が数十億年単位なのに対して、ハービッグ・ハロー天体が活発に輝いている時期は、数千年から数万年程度と考えられています。

実際に、数年から十数年のあいだをあけて撮影した画像を比較すると、ジェットが伸び、形が変化しているのが確認できています。ハッブル宇宙望遠鏡による長期観測では、この変化が映像として記録されています。これだけ短い期間で形が変わる天体は、宇宙の中でも珍しい部類に入ります。

私たちが今ハービッグ・ハロー天体を観測できているということは、宇宙ではほんの一瞬しか続かない「星の誕生現場」を偶然目撃しているということになります。


オリオン大星雲の中にも

ハービッグ・ハロー天体はどこで見られるのでしょうか。

代表的な観測フィールドは、星形成が活発な星雲の内部です。冬の夜空に見えるオリオン座の「三ツ星」の下に広がるオリオン大星雲(M42)には、すでに多くのHH天体が確認されています。

肉眼や小さな望遠鏡でハービッグ・ハロー天体そのものを見分けることは難しいですが、M42はオリオン座の「三ツ星」のすぐ下、肉眼でもほんのりとした明るさとして確認できます。その光の中に、今まさに誕生しようとしている星があると知って眺めると、同じ星雲でも見え方が変わるかもしれません。


ハービッグ・ハロー天体から分かること

HH天体は、誕生直後の原始星がどのように成長しているかを調べる重要な手掛かりです。ジェットの速度や形を調べることで、星形成の仕組みや周囲のガスとの相互作用を知ることができます。

まとめ|光の正体は「衝突の痕跡」

この記事で見てきたことを整理します。

ハービッグ・ハロー天体とは、原始星が双極ジェットとして吹き出したガスが、周囲のガス雲と衝突して衝撃波を起こし、発光している領域のことです。光っているのは星本体ではなく、ジェットが衝突している「痕跡の場所」です。

原始惑星系円盤を持つ原始星 → 磁場によるジェットの噴出 → ガス雲への衝突 → 衝撃波による加熱 → 発光、という流れを理解すると、あの細長い光が「星の誕生という過程の一断面」であることがわかります。

夜空に静かに見える星の一つひとつも、かつてはこうした激しい誕生の段階を経ています。今夜の穏やかな星光の奥に、46億年前の衝撃波を思い浮かべてみてください。


参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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