星が生まれる瞬間の「産声」。美しく激しいハービック・ハロー天体

夜空は静寂に包まれているように見えますが、実はどこかで常に、新しい星が生まれています。 深い霧のようなガスの中で、赤ちゃん星が目覚めるとき。 そこには、静けさを切り裂くような激しいドラマがあります。

皆さんは、「ハービック・ハロー天体」という名前を聞いたことがありますか? アメリカのハービックさんと、メキシコのハローさんという二人の天文学者が見つけたこの天体。天文学では Herbig-Haro object(HH天体) とも呼ばれます。

それはまるで、SF映画に出てくるライトセーバーやビームのような形をして輝いています。 実はこれ、「生まれたばかりの星が上げる、元気な産声」そのものなのです。

herbig-haro jet
Image Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)/Hubble-Europe (ESA) Collaboration, D. Padgett (GSFC), T. Megeath (University of Toledo), and B. Reipurth (University of Hawaii)

目次

宇宙を貫く「光のビーム」

百聞は一見にしかず。ハッブル宇宙望遠鏡などが撮影した「ハービック・ハロー天体」の写真は、本当に不思議な形をしています。

暗黒の雲の中から、細長い光の筋が「ズドン!」と一直線に伸びているのです。 時には、その筋が反対側にも伸びて、双方向にビームを放っていることもあります。

「誰かが宇宙戦争でもしているの?」 そう思ってしまうほどの激しさですが、この光の筋の中心にいるのは、生まれたてホヤホヤの赤ちゃん星(原始星)です。

まだ厚いガスの雲に包まれて外からは見えないその星が、凄まじい勢いで物質を吐き出している。その姿が、このビームの正体なのです。


なぜ、赤ちゃん星は「ビーム」を出すの?

でも、なぜ生まれたばかりの星がそんな激しいジェット噴射をするのでしょうか? それは、赤ちゃん星の「食事」に関係しています。

星は、宇宙空間のチリやガスが重力で集まって生まれます。 赤ちゃん星はものすごい勢いで周囲のガスを吸い込んで成長するのですが、あまりに勢いよく吸い込みすぎて、全部を飲み込むことができません。

「もう食べられないよ!」 そう言わんばかりに、飲み込めなかったガスの一部を、磁場の力を使って上下(南極と北極の方向)に猛烈な勢いで吹き飛ばしてしまいます。

これが「宇宙ジェット(双極分子流)」と呼ばれる現象です。 そのスピードは、なんと時速数十万キロメートル以上。新幹線が止まって見えるほどの超音速です。これは、星が成長するために「余分なエネルギーや勢いを外へ逃がす安全弁」のような役割も果たしています。


衝撃波が描くアート

さて、猛スピードで吹き出されたガス(ジェット)は、周りにある「静かなガス雲」に激突します。 何もない静かな空間に、超音速の物質が突っ込むのですから、そこには強烈な「衝撃波」が生まれます。

飛行機が音速を超えたときに「ドン!」と音がするように、宇宙空間でもガス同士が激しくぶつかり合い、その衝撃でガスが高温になり、光り輝き始めます。宇宙では音は聞こえませんが、光としてその衝撃の痕跡を見ることができるのです。

この「ジェットが周囲の雲に衝突して、衝撃波で光っている場所」。 これこそが、「ハービック・ハロー天体」の正体です。

星そのものではなく、星が元気に暴れている「痕跡」が光っているわけですね。


天文学的な「ほんの一瞬」

このハービック・ハロー天体には、もう一つロマンチックな特徴があります。 それは「寿命がとても短い」ということです。

星の寿命は何十億年もありますが、このハービック・ハロー天体が見られるのは、ほんの数千年から数万年程度。 星の一生を人間の80年に例えるなら、ほんの数時間、あるいは産まれてすぐに泣いている数分間のようなものです。

実際、数年ごとに撮影した写真を比べると、ジェットが動いていたり、形が変わっていたりするのが分かるほど、変化の激しい天体です。 私たちがこの天体を見ているということは、まさに「今、星が生まれた!」という決定的瞬間に立ち会っているということなのです。


私たちの太陽も、46億年前の誕生時には、きっと元気なハービック・ハロー天体を作っていたはずです。 宇宙のどこかへ向けて、「ここに生まれたぞ!」と高らかに産声を上げていたのかもしれません。

冬の代表的な星座であるオリオン座。その三ツ星の下にある「オリオン大星雲」の中などでも、望遠鏡を使えば多くのハービック・ハロー天体が見つかっています。

もし、写真や観望会で不思議な細長い雲を見かけたら、思い出してください。 それは、遥か彼方で新しい命が誕生し、力いっぱい叫んでいる姿なのだと。

参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次