黄道十二星座の1番目、「おひつじ座」。実は星占いの世界だけでなく、天文学の歴史においても、長い間「特別な役割」を担ってきた星座です。
地味で目立たないこの星座に、どうしてそんな重要な役目が与えられたのでしょうか。今夜は、おひつじ座にまつわる神話と、その裏にある天文学の話をしていきます。

おひつじ座の神話|兄妹を救った黄金の羊
おひつじ座のモデルは、ギリシャ神話に登場する「黄金の毛をもつ羊」です。
継母にいじめられ、命を狙われていた幼い兄妹・プリクソスとヘレー。彼らを助けるため、天の神々が遣わしたのが、空を飛べる黄金の羊でした。羊は兄妹を背中に乗せ、敵地を飛び越えて遠くの国まで送り届けます。
役目を終えた羊の毛皮は「黄金の羊毛(ゴールデンフリース)」として神に捧げられ、後に英雄イアソンが仲間とともに命をかけて取り戻しに向かう、伝説の宝物になりました。
おひつじ座の見どころ|逆「く」の字とハマル
実際の夜空でおひつじ座を探すと、明るい星はほとんどなく、形も羊には見えにくい星座です。それでも、3つの星が描く逆「く」の字を覚えておくと、見つけやすくなります。
ハマル(α星)
おひつじ座で唯一の2等星。地球からの距離は約65.8光年で、太陽より一回り重いK型の巨星です。中心部の水素を使い果たし、外側に大きく膨らみはじめた「赤色巨星」への入り口にいる星で、表面温度は太陽より低い約4,000℃。そのためオレンジ色がかった光に見えます。

メサルティム(γ星)
肉眼ではただの暗い星ですが、1664年に科学者ロバート・フックが望遠鏡を向けたところ、ほぼ同じ明るさの2つの星に分かれて見えることがわかりました。これは、望遠鏡で発見された最初の二重星のひとつとされています。
なぜおひつじ座は黄道十二星座の最初なのか
黄金の羊は神話の中で「黄金の羊毛」という宝物を残しました。しかし、おひつじ座が残した宝物はそれだけではありません。実はこの星座は、長いあいだ「宇宙の座標の出発点」という、天文学上の大切な役割も担っていたのです。
おひつじ座が黄道十二星座の1番目とされているのには、理由があります。
この星座が生まれた古代バビロニアの時代、太陽が春分の日に位置していたのは、ちょうどおひつじ座の領域でした。春分は「1年の始まり」を示す特別な日付であり、農作業の暦の基準にもなっていました。
「1年が始まる場所にある星座」だったことから、おひつじ座は黄道十二星座の最初に置かれるようになったのです。
春分点と♈|現代天文学に残るおひつじ座
ただし、現在の春分点はおひつじ座にはありません。地球の地軸はゆっくりと向きを変える「歳差運動」をしており、約2,000年の間に春分点は隣の「うお座」へ移動してしまいました。紀元前後の時代に、春分点はおひつじ座の領域から外れたとされています。
それでも、天文学の世界では今でも春分点を示す記号として「♈(おひつじ座のマーク)」が使われています。星の位置を表す座標(赤経・赤緯)は、この♈の位置を基準点(赤経0時)として計算されているのです。
実体としての役目は終えても、その「名前」と「記号」だけは、宇宙の住所を決めるための基準として、今も天文学の計算式の中に残り続けています。

まとめ
おひつじ座は、肉眼で見ると地味な星座です。しかし、その背景には「兄妹を救った黄金の羊」の神話と、「1年の始まりを示す星座」として宇宙の基準点を担ってきた歴史が重なっています。
冬の星座たちが西へ沈んでいくころ、頭上にひっそりと浮かぶ逆「く」の字。それを見つけたとき、そこに刻まれた長い歴史にも、少しだけ思いを向けてみてください。

参考文献