最近、早起きはされていますか? 実は今、明け方の東の空に『水星』がとてもきれいに見えているんです。
2025年12月8日に水星は「西方最大離角」を迎えました。つまり、太陽から離れて見つけやすくなっている絶好の観測チャンスです。 寒さで空気が澄んだ12月の明け方、きりっと冷えた空に輝く水星は、まるで淹れたてのエスプレッソのように鋭く美しい輝きを放っています。
西方最大離角について
天文ニュースなどでよく耳にする「西方最大離角(せいほうさいだいりかく)」という言葉。なんだか難しい数式が出てきそうな響きですが、少し紐解いてみましょう。
水星は太陽系の一番内側を回っている惑星です。いつも太陽という「眩しすぎる親分」のすぐそばにいるため、普段は太陽の強い光に隠れてしまい、地球からはその姿をほとんど見ることができません。
でも、水星が太陽の周りをぐるぐると回る中で、地球から見て「もっとも太陽から離れた位置」に来るタイミングがあります。これを「最大離角」と呼びます。
親分の影に隠れていた恥ずかしがり屋の水星が、勇気を出して一番遠くまで離れてくれる瞬間。この時だけは、太陽の眩しさに邪魔されず、私たちもその姿をはっきりと捉えることができるのです。
では、今回の「西方(せいほう)」とはどういう意味でしょうか?
これは「太陽の西側に離れている」ということです。 太陽は東から昇りますよね。水星がそれより「西側」にいるということは、「太陽が昇ってくるよりも先に、水星が東の空に顔を出す」ということを意味します。
つまり、「西方最大離角」とは、 『夜明け前、太陽がまだ昇らないうちに、水星だけが先回りして輝いている絶好のチャンス』 のことなのです。
だからこそ、今の時期は早起きが必要なんですね。 太陽という主役が登場する前の、ほんのひとときだけの特別な輝き。ぜひ味わってみてください。
「みお」にとっての特別な12月
なぜ今、水星の話をするのか。それは、この2025年12月が、ある旅人にとって『約束の到着月』だったからです。
探査機「みお(BepiColombo)」は 日本とヨーロッパが共同で送り出した水星探査機です。2018年に地球を旅立ち、7年かけてこの2025年12月に水星の周回軌道に入る予定でした。 もし予定通りなら、今頃ニュースは『みお、水星到着!』で持ちきりだったはずなんです。
なぜ遅れているの?
しかし、旅は一筋縄ではいきませんでした。2024年にエンジンの出力が上がらないトラブルがあり、無理に到着を目指すよりも、時間をかけて安全なルートを通ることを選びました。
そのため、到着は2026年11月へと約1年延期されました。今は、最後のスイングバイ(2025年1月)を終え、最後の1周を静かに周回している『長いラストスパート』の最中です。
遅れは失敗ではありません
到着が遅れたことを『失敗』と捉える人もいるかもしれません。でも、この星空喫茶ではこう考えます。『楽しみにして待つ時間が、もう1年も増えた』と。今、明け方の空に光るあの水星の近くを、肉眼では見えませんが『みお』が飛んでいます。あと1年かけて、あの輝きの中に飛び込む準備をしているのです。
まとめ
寒い朝、温かいコーヒーを片手に東の空を探してみてください。きらりと光る水星を見つけたら、その近くには「みお」がいるかもしれません。心の中で『あと1年、気をつけて』と声をかけてあげてくださいね。
Image Credit: NASA

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