重力波の観測は、アメリカのLIGO(2台)、欧州のVIRGO(1台)、そして日本のKAGRA(1台)と、計4台あります。
「そんなにたくさん要るの?」と思うかもしれません。 しかし、天文学者たちは「KAGRA、早く動いてくれ!」と日本の参加を心待ちにしていました。 なぜなら、4台揃うことで、初めて「本当の意味で完成形に近い監視体制」が実現します。
それは、音楽で言えばモノラルがステレオになり、そして「サラウンド」へと進化するような劇的な変化なのです。


メリット1:地図の精度が爆上がりする(三角測量)
最大のメリットは、VIRGOの記事でも少し触れた「場所の特定(震源決定精度)」です。
- 2台(LIGOのみ): 「空のどこかの円周上」しか分からない(帯状)。
- 3台(LIGO+VIRGO): 「こっちの方角!」と指差せる(数パーセントの領域)。
- 4台(LIGO+VIRGO+KAGRA): 「このあたりの銀河群だ!」と、実用的な精度で絞り込める
KAGRAは、LIGOやVIRGOから地理的に大きく離れた「極東(アジア)」にあります。 測量において、観測点同士が離れていればいるほど、精度は上がります。
日本のKAGRAが加わることで、ベースライン(距離)が伸び、空のどこで爆発が起きても、「あそこだ!」と即座にすばる望遠鏡に連絡できるようになるのです。
メリット2:「死角」を消す(アンテナ指向性)
実は、重力波望遠鏡には「死角」があります。 L字型の腕に対して、特定の角度から来る波には感度が低く、ほとんど聞こえないのです(アンテナパターン)。
LIGOとVIRGOは、地球上の配置の関係で、得意な向きと苦手な向きが似通っています。 もし、彼らの「死角」から重力波が来たら、見逃してしまうかもしれません。
そこでKAGRAの出番です。 KAGRAは、彼らとは違う向き・違う場所を向いています。 「欧米が見逃す死角を、日本がカバーする」 4台が互いの死角を補い合うことで、全天どこから波が来ても、誰かが必ず「聞こえた!」と手を挙げられるようになります。
メリット3:シフト制で24時間監視(デューティサイクル)
これが意外と知られていない、現実的な理由です。 重力波望遠鏡は、超精密機械なので、頻繁に止まります。
- 地震でロックが外れた
- 鏡の調整(メンテナンス)
- 工事やアップグレード
実際、1台の望遠鏡が正常に稼働している時間(デューティサイクル)は、良くて70%程度です。 もし世界に3台しかないと、「3台とも同時に動いている確率」は計算上、約34%ほどに下がってしまいます。 これでは、せっかくのレアなイベントを見逃してしまいます。
しかし、4台あれば。 「誰かがメンテ中でも、残りの3台(あるいは2台)が動いている」確率が劇的に上がります。 「誰かが休んでも、監視網は途切れない」 工場のシフト制と同じで、4台あることは「常時接続」のために必須なのです。4台中3台が正常稼働している確率は、さきほどと同じ仮定をすると約65%です。かなり恩恵がありますね。
メリット4:波の「形」が見える(偏光)
少し専門的な話ですが、重力波には「偏光(へんこう)」があります。 (光に「縦波・横波」や偏光サングラスがあるのと同じです)
重力波の偏光には「プラス(+)モード」と「クロス(×)モード」の2種類があり、これを区別することで、ブラックホールの傾きや、一般相対性理論が正しいかどうかの検証ができます。 これを正確に解き明かすには、異なる向きに設置された多数の検出器が必要です。
※他の理論では異なる偏光が予言されることもあります
KAGRAが加わることで、この「波の性質」を分析する能力が格段に向上し、アインシュタインの理論をより厳密にテストできるようになります。
地球という一つの生命体
今回、KAGRAが加わることで、4つの重力波望遠鏡が地球を包囲し、「地球サイズの巨大な耳」が完成するというお話をしました。
実は、これと同じことが「光(電波)」の世界でも起きています。 以前紹介したアルマ望遠鏡などがチームを組み、地球全体を一つのレンズに見立ててブラックホールを撮影した「EHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)」です。 あれは、人類が手に入れた「地球サイズの巨大な目」でした。
考えてみてください。 私たち人類は今、この青い惑星に、 「ブラックホールの影を見る目(EHT)」と、 「ブラックホールの衝突音を聞く耳(重力波ネットワーク)」の 両方を取り付けたのです。
目と耳が揃った。 それはつまり、「地球そのものが、宇宙を感じ取る一つの生命体(顔)になった」と言えるのではないでしょうか。
KAGRAの稼働は、単なる4台目の建設ではありません。 この「地球という顔」の耳の感度を極限まで高め、宇宙のどんな小さな囁きも聞き逃さないようにするための、最後の重要なピースなのです。




参考文献
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