火星の中心には何がある?核が冷えた惑星の内部構造

ちょっとお喋りに夢中になっていると、カップの中身はすぐに冷めてしまいます。 小さなカップほど、すぐに冷たくなる。これは、私たちの身の回りにある「当たり前」の物理法則ですが、実は宇宙に浮かぶ巨大な惑星たちも、このルールには逆らえないことをご存知ですか?

今夜お話しするのは、夜空で赤く輝く「火星」の、その体の奥深くにある「心臓」のお話です。

かつては地球の兄弟のように熱かったその星が、なぜ今は静寂に包まれているのか。 NASAの探査機が聴診器を当てて聴き取った、火星の「小さな寝息」に耳を澄ませてみましょう。

火星の核についてイメージ図
Image Credits: NASA/JPL-Caltech/University of Maryland

目次

兄弟星の分かれ道は「身体の大きさ」

みなさんは、お風呂のお湯を沸かしたあと、湯船のお湯と、洗面器に汲んだお湯、どちらが先に冷めるか想像できますか? もちろん、量の少ない洗面器の方ですよね。

実は、地球と火星の関係もこれによく似ています。

46億年前の熱い記憶

太陽系が生まれたばかりの頃、地球と火星は、どちらもドロドロに溶けたマグマの塊として産声を上げました。 兄弟のように似た環境で生まれた二つの星ですが、彼らの運命を分けたのは、その「大きさ」でした。

火星の直径は、地球の半分ほどしかありません。 体重(質量)で言えば、なんと地球の10分の1ほど。地球が立派なスイカだとしたら、火星はみかん、あるいは少し大きなプラムくらいのサイズ感でしょうか。

This composite image of Earth and Mars was created to allow viewers to gain a better understanding of the relative sizes of the two planets.
Image Credit: NASA/JPL-Caltecj

小さな身体は、冷めやすい

身体が小さかった火星は、地球よりもずっと早く、その体温——つまり「内部の熱」を宇宙空間へ逃がしてしまいました。

地球がまだ、芯までアツアツの「焼き芋」のように情熱的なエネルギー(地熱)を保っているのに対し、火星は早々に冷え込んでしまったのです。 この「冷え」こそが、火星を今の乾燥した赤い砂漠へと変貌させた、最大の要因だと言われています。


火星の「心臓」は、本当に止まってしまったのでしょうか?

星の内部が冷えると、一体何が起きるのでしょうか。 ここで少し、私たちの「地球」の心臓部を見てみましょう。

プレートテクトニクスの図解
Created with Gemini

地球の中心には「核(コア)」と呼ばれる、鉄でできた超高温の心臓があります。 この心臓がドクドクと対流し、回転することで、地球全体を包み込む「磁場(バリア)」が生み出されています。このバリアがあるおかげで、私たちは太陽からの有害な風や放射線から守られているのです。

消えたバリア

火星も昔は、地球と同じように熱い心臓と、強力なバリアを持っていたと考えられています。 しかし、身体が小さく冷めやすかった火星は、ある時、その心臓の動きを弱めてしまいました。

エンジンが止まれば、バリアも消えます。 無防備になった火星は、太陽から吹き付ける「太陽風」によって、大切に持っていた大気や海を宇宙空間へと剥ぎ取られてしまったのです。

今の火星が、寒く、乾燥した荒野になってしまったのは、彼の心臓が「冷めてしまった」からなんですね。


聴診器を当てた「お医者さん」の発見

「じゃあ、火星の中身はもう、カチコチに凍りついた冷たい岩の塊なの?」

長い間、天文学者たちもそう考えていました。 完全に冷え切った、死の世界だと。 しかし、その定説を覆すような発見が、つい最近もたらされたのです。

NASAの探査機「インサイト」

2018年、火星に降り立ったNASAの探査機「InSight(インサイト)」は、これまでの探査機とは少し違った使命を持っていました。 彼は、カメラで綺麗な景色を撮る代わりに、地面にじっと「地震計」を設置しました。

そう、火星という患者さんの胸に聴診器を当てて、その鼓動(地震波)を聴き続けたのです。

意外にも「柔らかい」心臓

インサイトが聴き取った「火星の地震(火星震)」のデータは、驚くべきものでした。 地震波の伝わり方を解析した結果、火星の中心にある核は、完全にカチコチに固まっているわけではなく、まだドロドロに溶けた液体である可能性が高いことがわかったのです。

「えっ、冷えて固まったんじゃないの?」と思いますよね。

どうやら火星の心臓は、完全に固まるほど冷え切ってはいないものの、地球のように元気に動き回る(対流する)ほどの力は失ってしまった……いわば「微熱」のような状態で、静かに液体として存在しているようなのです。

それはまるで、飲み頃を過ぎてしまったけれど、まだ完全には冷たくなっていないスープのようなものかもしれません。 かつての激しい情熱は失われたけれど、その奥底には、46億年前の熱の名残を、密かに抱き続けているのです。


まとめ

今夜、もし晴れていたら、南から西の空にかけて赤く輝く火星を探してみてください。

肉眼で見えるその赤い光は、ただの「乾いた砂の色」ではありません。 それは、地球よりも少し早く大人になり、少し早く冷めてしまった、私たちの「小さな弟」の姿です。

冷たい砂漠の下、数千キロメートルの深さにある、ドロドロと重たい液体の心臓。 もう地球のように磁場を生み出す元気はないけれど、それでも彼は、たしかに生きている——。 そう想像すると、あの赤い輝きが、どこか切なく、そして愛おしく見えてきませんか?

夜風が冷たくなってきましたね。 みなさんの持っているミルクティーが冷めきってしまう前に、温かい部屋に戻ることにしましょう。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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