【星の図鑑】宇宙に漂う、冷たくて美しい「星のゆりかご」。星間分子雲の話

オリオン大星雲
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宇宙は「空っぽ」じゃない

夜空を見上げると、星と星の間には真っ暗な闇が広がっています。『宇宙空間は真空だ』とよく言われますが、本当に何もないのでしょうか?

実は、この隙間には目に見えないほど薄いガスや、微細な塵(ちり)が漂っています。それが長い時間をかけて集まり、巨大な雲になった場所、それが今回の主役『星間分子雲』です。

星間分子雲ってなに?

主成分は水素ガスです。そこにほんの少しの宇宙の塵(ススのようなもの)が混ざっています。

ここは宇宙でも屈指の極寒の世界。温度はなんとマイナス260℃(絶対温度10K〜20K)。 熱い星が生まれる場所なのに、なぜ冷たいの?と思うかもしれません。でも、『冷たいからこそ、静かに集まることができる』のです。熱ければガスは運動して拡散してしまいますから。

大きさはとてつもなく巨大ですが、中身はスカスカです。地球の実験室で作れる『真空』よりも薄いほどです。それでも何十光年という大きさがあるので、全体では太陽の数万倍もの重さになります。

星のゆりかご(オリオン大星雲)

この冷たい雲の中で、ガスが特に濃い場所が、自身の重力でギュッと縮まり始めます。

一番有名なのが、冬の夜空に見える『オリオン大星雲(M42)』です。 [オリオン座の記事]でも紹介した三ツ星の下あたり。あそこでは今まさに、この分子雲の中で数百個もの新しい星が産声を上げています。

逆に、後ろの明るい光を遮って、黒い影絵のように見える雲もあります。有名な『馬頭星雲』などがそうです。あれもまた、光らないだけで同じ分子雲の姿です。

馬頭星雲

破壊と創造のアート

NASAの画像などで見る星雲が、なぜあんなにカラフルで複雑な形をしているのか。 それは、生まれたばかりの元気な星たちが、強い紫外線や風(星風)で、周りにある雲を内側から吹き飛ばし、削り取っているからです。彫刻みたいなアートですね。

静寂の終わり、そして「原始星」へ

創造の柱

この冷たい雲の中で、やがて変化が訪れます。 ガスの密度が特に濃い場所が、自分自身の重さ(重力)に耐えきれなくなり、内側に向かってギュッと縮み始めるのです。

縮まることで、マイナス260度だった中心部は急激に熱を持ち始めます。 そして、その暗闇の中心で、淡く、しかし力強く熱を帯びた『芯』が生まれます。

これが星の赤ちゃん、『原始星(げんしせい)』です。

しかし、生まれたばかりの彼は、まだ母体である厚いガスの殻(繭)に包まれていて、外からはその姿がよく見えません。 彼はこの繭の中で、周りのガスをどんどん食べて太り、一人前の星になる準備をしているのです。

私たちの「実家」

私たちの太陽も、46億年前にどこかの分子雲の中で生まれました。そして私たちの体を作る酸素や炭素も、元をたどれば宇宙の塵でした。

今夜、もしオリオン大星雲を眺めるときは、ただの光のシミではなく、『あそこは星たちの実家なんだな』と思ってみてください。そう思うと、あの冷たい宇宙の雲が、少しだけ温かく感じられるかもしれません。

Image Credit: NASA, ESA/Hubble and the Hubble Heritage Team

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とコーヒーが好き。飯もちゃんと好き。

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