夜空を見上げても、何かが「揺れている」ようには見えません。星はいつも同じ場所で、静かに光っているだけです。
ところがこの瞬間も、宇宙のどこかで起きた天体の衝突によって生まれた「揺れ」が、あなたの体をほんのわずかに伸び縮みさせているとしたら、どうでしょうか。
その揺れの正体が、重力波です。

重力波とは?|アインシュタインが予言した時空の波
重力波とは、質量の大きな天体が激しく運動するときに発生し、空間そのものを伝わっていく「揺れ」のことです。
光や電波は、空間という”舞台”の上を移動する現象です。一方、重力波は舞台そのものが波打つ現象だという点が大きく異なります。空間の伸び縮みが、光と同じ速さで宇宙を伝わっていくのです。
この現象を100年以上前に予言したのが、アインシュタインです。

重力波はなぜ発生するのか?
重力波は、非常に重い天体が加速運動するときに発生します。特にブラックホールや中性子星が互いの周りを高速で回転しながら接近すると、時空の歪みが波として外側へ伝わります。静止している天体からは強い重力波はほとんど発生しません。

宇宙は「トランポリン」|重力の正体から考える
重力波を理解するには、まず重力そのものの仕組みを知る必要があります。イメージしやすいのは、ピンと張ったトランポリンです。
ゴムのシートを宇宙空間だと考えてください。そこに重いボウリングの球を置くと、シートは沈み込んで凹みができます。この「空間の凹み」こそが、重力の正体です。近くを転がるビー玉が、その凹みに沿って円を描くように動く。これが、私たちが「引力」と呼んでいる現象の正体です。
※実際には「時間」も含めた4次元の時空が曲がっていますが、ここではイメージしやすいよう空間の凹みとして説明しています。
では、このボウリングの球が静かに置かれているのではなく、激しく動き回ったらどうなるでしょうか。たとえば、二つのブラックホールが互いの周りを高速で回転しながら、最後には衝突するとき。トランポリンのシートは激しく波打ちます。その波が宇宙の彼方まで光速で広がっていく現象が、重力波です。
池に石を投げ込むと水面に波紋が広がるように、宇宙で重い天体が激しく動くと、空間そのものが波紋のように揺れて地球まで届きます。
私たちの体も、実は伸び縮みしている
「空間が揺れるなら、私たちの体も伸び縮みしているのか」と思うかもしれません。その通りです。重力波が地球を通過する瞬間、あなたの身長はほんのわずかに伸びたり縮んだりしています。
ただし、その変化量はけた違いに小さなものです。
空間というと、ゴムやゼリーのような柔らかいものを想像しがちですが、実際の時空は驚くほど変形しにくい性質を持っています。ブラックホール同士が衝突するような宇宙最大級の出来事でさえ、地球に届くころには、その歪みは原子よりもはるかに小さな変化しか生みません。
だからこそアインシュタイン自身も、人間がこの揺れを観測することはまず不可能だろうと考えていました。その「観測不可能」とされた揺れを、何十年もかけて検出しようとしたのが、KAGRAやLIGOといった重力波望遠鏡です。
なぜ「宇宙の音を聞く」と表現されるのか
重力波のニュースでは、しばしば「宇宙の音を聞く」という表現が使われます。これは比喩ですが、的を射た表現です。
光による観測は、いわば「目」で宇宙を見ることに近いといえます。星の表面から出た光を捉えるので、途中にガスや塵があると遮られてしまいます。一方、重力波による観測は「耳」で宇宙を感じることに近いものです。重力波はほとんど何にも遮られず、天体の重さや動きそのものを直接伝えてきます。
ブラックホール同士が合体する直前、互いの回転速度はどんどん速くなっていきます。それに伴って重力波の周波数も上がっていきます。このデータを音として再生すると、「ヒュンッ」と短く高くなっていく、鳥のさえずりのような音に聞こえます。
この音の高さや長さを分析することで、「太陽の何十倍の重さを持つブラックホールが合体したのか」といった情報まで読み取ることができるのです。

ガリレオ以来の、もうひとつの宇宙の見方
約400年前、ガリレオ・ガリレイは望遠鏡を夜空に向け、「光による天文学」を切り開きました。そして2015年、人類は初めて重力波の直接検出に成功し、「重力による天文学」という新しい扉を開きました。
これは、人類が光とはまったく異なる方法で宇宙を観測できるようになった歴史的な出来事でした。
目には見えないけれど、確かにそこにある時空の震え。今夜の夜空を眺めるときは、その静けさの裏側で、宇宙のどこかから届いた揺れが、今もあなたの体をほんのわずかに揺らしているかもしれない——そんな想像をしてみてください。
世界で初めて重力波の直接検出に成功したのが、アメリカのLIGOです。発生源の方向の特定に大きく貢献したのが、ヨーロッパのVIRGOです。そして日本でその観測を担っているのが、KAGRAです。

参考文献