かつて火星には海があった可能性がある。青い惑星を「赤く」変えた、磁場消失のミステリー

現在の火星は、赤く乾いた砂漠の星です。 しかし、40億年前の火星は、地球と同じように「青い星」だったと言われています。 広大な海があり、分厚い雲が浮かび、生命が生まれるチャンスさえありました。

なぜ、火星は変わり果ててしまったのか? その最大の原因は、ある一つの機能が停止したことにあります。 それは、惑星を包み込むバリア、「磁場」です。 今日は、火星の心臓が止まった日の物語です。

火星の複雑な磁場環境
Image Credit: Anil Rao/Univ. of Colorado/MAVEN/NASA GSFC

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惑星が生み出す最強の盾

なぜ地球には生命が溢れているのか。 その理由の一つは、地球が「巨大な磁石」だからです。

方位磁針が北を向くのは、地球が磁気を帯びている証拠です。 この磁気は、宇宙から降り注ぐ有害な放射線や、太陽から吹いてくる暴風(太陽風)を弾き返す、見えないバリア(磁気圏)として機能しています。

かつては火星にも、このバリアがありました。 しかし、ある時期にスイッチが切れ、バリアは消滅しました。 その瞬間から、火星は宇宙の過酷な環境に「裸」で晒されることになったのです。


ダイナモが止まった日

では、なぜ磁場は消えたのでしょうか? 「ダイナモ(発電機)」の原理が登場します。

惑星が磁場を持つには、3つの条件が必要です。

  1. 導電性流体(電気を通す液体=溶けた鉄)があること。
  2. 回転(自転)していること。
  3. 対流(熱による循環)が起きていること。

地球の中心(外核)では、ドロドロに溶けた高温の鉄が、地球の自転と熱によってグルグルと対流しています。 この鉄の流れが巨大な電流を生み、電磁石のように磁場を作っています(ダイナモ理論)。

しかし、火星は地球の半分のサイズしかありませんでした。 「小さいものは、冷めやすい」 お湯を入れたマグカップがすぐに冷めるように、小さな火星は地球よりも早く内部が冷えてしまいました。

冷えた結果、どうなるか? 内部の温度差がなくなって「対流」が止まったか、あるいは核の一部が固まって動きが鈍くなった可能性があります。 エンジンの燃料(熱)が切れ、流体の動きが止まった。 これが、火星の磁場消失=心臓停止の瞬間です。


残された化石磁場

「本当に昔は磁場があったの?」 そう疑う声もあるかもしれません。しかし、証拠は残っていました。

火星の南半球の地殻(岩石)を調べると、「縞模様の磁気」が残っている場所があります。 これは、溶岩が冷えて固まる瞬間に、当時の火星の磁場の向きを記録したものです(残留磁化)。

いわば「磁場の化石」です。 この化石は、40億年前の火星には、現在の地球に匹敵するような強力なバリアが存在していたことを無言で語っています。


そして、大気が剥ぎ取られた

バリアを失った火星に、容赦ない攻撃が始まりました。 太陽から吹き付ける「太陽風(プラズマの暴風)」です。

磁場があれば弾き返せたはずのこの風が、火星の大気に直接衝突しました。 そして、大気を宇宙空間へと次々に弾き飛ばしていったのです。

こうして火星は、守る術を失い、ゆっくりと死の世界へと変貌していきました。


地球の幸運

私たちが今、こうして生きていられるのは、地球の中心部がまだアツアツで、ドロドロの鉄が元気に動き回っているおかげです。 地球がこのサイズだったこと、そして適度な保温性を持っていたこと。 その偶然のバランスが、私たちを太陽風から守っています。

火星の悲劇は、決して他人事ではありません。 遥か未来、地球の芯が完全に冷え切ったとき、私たちの星もまた「第2の火星」になってしまうかもしれません。太陽の赤色巨星化と、どちらが先でしょうか。

参考文献

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この記事を書いた人

「深夜の星空喫茶」管理人。 三度の飯より星とミルクティーが好き。飯もちゃんと好き。

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