夜空にはたくさんの星があり、それらを結んで想像する星座も多くの種類があります。そのなかでも一般に広く知られているのは、星占いの12星座ではないでしょうか。そんな12星座のうち、おひつじ座について解説していきます。

【神話:空飛ぶ黄金の羊】
おひつじ座のモデルは、ギリシャ神話に登場する「全身が黄金の毛で覆われた羊」だと言われています。
あるとき、継母にいじめられて命を狙われていた幼い兄妹がいました。 彼らを助けるために、天の神ゼウスが遣わしたのがこの黄金の羊です。
羊は兄妹を背中に乗せると、なんと空高く舞い上がり、猛スピードで空を駆け抜けました。 敵と戦うのではなく、圧倒的な速さで窮地を脱したそうです。
ちなみに、この羊が残した「金色の羊毛(ゴールデン・フリース)」は、後に多くの英雄たちが奪い合うほどの伝説の秘宝となりました。 それほどまでに、この羊は高貴で、特別な存在だったのです。
【星の科学:宇宙の「ゼロ地点」を持つ星座】
さて、ここからは少し天文学的なお話を。 実はおひつじ座は、天文学の歴史において「特別な役割」を担ってきました。
空の住所を決めるための、基準となる「ゼロ地点」。 地図でいう経度0度(ロンドン)のような場所が、かつてはおひつじ座にあったのです。
これを「春分点(しゅんぶんてん)」と呼びます。 太陽が春分点を通過する瞬間、世界に春が訪れます。 現在、このポイントは地球の歳差運動(首振り運動)によってお隣の「うお座」へ移動してしまいましたが、天文学の記号では今でも「春分点」のことを「♈(おひつじ座のマーク)」で表します。
何千年経っても、天文学者たちが星の座標を計算するとき、その計算式の先頭には「おひつじ座」の魂が刻まれているのです。
【注目の星:オレンジ色に輝く「ハマル」】
おひつじ座の中で一番明るい星(2等星)を見てみましょう。 名前は「ハマル(Hamal)」。アラビア語で「羊」そのものを意味します。
この星、望遠鏡で見ると美しい「オレンジ色」をしています。 これは、ハマルが以前お話しした「赤色巨星(または橙色巨星)」へと進化しつつある、ベテランの星だからです。
太陽よりも少し重いこの星は、すでに中心部での水素の核融合を終え、大きく膨らんで余生を過ごしています。 「生まれたての春」を象徴する星座の中に、こうして成熟した「大人の星」が静かに輝いている。 そのギャップもまた、夜空を見上げるときの楽しみの一つです。
【隠れた名星:角を飾る宝石「メサルティム」】
もう一つ、どうしても紹介したい星があります。 おひつじ座の「角」のあたりに輝く、「メサルティム」という星です。
肉眼で見ると、ただの暗い星にしか見えません。 しかし、この星には天文学の歴史に残る秘密が隠されています。
1664年、科学者ロバート・フックが彗星を探して空を眺めていたとき、偶然この星に望遠鏡を向けました。 すると驚くことに、一つの星だと思っていた光が、「二つの星」に分かれて見えたのです。
これは、人類が望遠鏡を使って発見した「最初の二重星(連星)」の一つだと言われています。
もし機会があれば、天文台の観望会などで見せてもらってください。 真っ暗な宇宙の中で、同じ明るさの純白の星が2つ、ピタリと寄り添って輝く姿は、まるで羊の角を飾るダイヤモンドのピアスのよう。 その清楚で美しい輝きを見れば、おひつじ座がもっと好きになるはずです。
おひつじ座の星たちは、派手にギラギラと輝くわけではありません。 しかし、冬の星座たちが西へ沈んでいく頃、頭上にひっそりと、でも力強く「くの字」を描いて輝いています。
「さあ、新しい季節の始まりだ」
そう告げるために、誰よりも早く空に駆け上がってきた黄金の羊。 おひつじ座生まれの皆さんも、何か新しいことを始めるとき、きっとこの星が背中を押してくれるはずです。
それでは、また次の星座でお会いしましょう。
参考文献
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