夜空には全部で88個の星座があります。
それなのに、星占いで使われるのはいつも「12個の星座」だけです。牡羊座、牡牛座、双子座……。誕生日と結びついているこの12星座は、いったい何が「特別」なのでしょうか。
答えは、太陽にあります。
地球から見ると、太陽は1年間をかけて星座の間をゆっくりと移動します。その通り道のことを「黄道」と呼び、黄道沿いに並ぶ12の星座を「黄道12星座」と言います。星占いの12星座は、この「太陽の通り道」を区切ったものです。
今夜は、黄道12星座の成り立ちと、各星座が持つ神話の物語を季節ごとにまとめてご紹介します。

黄道12星座とは?
黄道12星座とは、太陽が1年かけて通り過ぎる12の星座のことです。
古代バビロニアの人々は、農作業の暦をつくるために夜空を観察していました。彼らは、太陽が1年間でちょうど12の星座の領域を通過することに気づき、それを暦の基準として利用しました。これが黄道12星座の原型です。なお、現代の天文学では太陽は「へびつかい座」を含む13の星座を通過しますが、歴史的な黄道12星座は古代から受け継がれた区分です。のちにギリシャや古代ローマへと受け継がれ、現在の形になっていきました。
黄道12星座を太陽が通過する順に並べると、次の通りです。
おひつじ座 → おうし座 → ふたご座 → かに座 → しし座 → おとめ座 → てんびん座 → さそり座 → いて座 → やぎ座 → みずがめ座 → うお座
この順番を4つに区切ると、それぞれ「春・夏・秋・冬に太陽が通過する星座」に対応しています。
なお、現代の天文学では太陽は「へびつかい座」を含む13の星座を通過しますが、歴史的な黄道12星座は古代から受け継がれた区分です。
黄道12星座一覧
| 星座 | 神話 | 見どころ |
|---|---|---|
| おひつじ座 | 黄金の羊 | 春分点 |
| おうし座 | ゼウスの化身 | すばる |
| ふたご座 | 双子の兄弟 | カストル |
| かに座 | カルキノス | M44 |
| しし座 | ネメアの獅子 | レグルス |
| おとめ座 | アストライア | スピカ |
| てんびん座 | 正義の天秤 | 緑色に見える星 |
| さそり座 | オリオン討伐 | アンタレス |
| いて座 | ケイロン | 銀河中心 |
| やぎ座 | パン神 | 半獣半魚 |
| みずがめ座 | ガニュメデス | らせん星雲 |
| うお座 | アフロディテ親子 | 春分点 |
なぜ太陽は12星座の中を移動するのか
「太陽が星座の間を移動する」というのは、少し不思議に聞こえるかもしれません。太陽は動いていないのでは? と思った方も多いでしょう。
確かに、太陽そのものが星座の間を飛び回るわけではありません。実際に動いているのは地球です。
地球は太陽のまわりを1年かけて公転しています。そのため、地球から見た太陽の「背景」にある星座が、季節とともに少しずつ変わっていきます。冬にはいて座ややぎ座付近、春にはうお座付近……という具合です。
この「地球の公転によって見え方が変わる太陽の通り道」を黄道と呼びます。黄道は地球の公転軌道面が天球上に投影された大円で、黄道12星座はその沿線に並んでいます。
なお、昼間は太陽の光で星が見えないため、太陽と同じ星座を夜空で観察することはできません。夜空でよく見える星座は、太陽が通過する季節とは逆になります。 春に太陽がおひつじ座を通過しているとき、夜空で見やすいのは反対側のさそり座やいて座です。各星座の項目では、夜空で見やすい季節もあわせて触れています。

星占いとの関係
「自分はおうし座だ」という言い方は、正確には「自分が生まれた日に太陽がおうし座の領域を通過していた」という意味です。
星占いの誕生星座(太陽星座)は、生まれた日の太陽の位置で決まります。現代の西洋占星術では、春分点を起点として黄道を12等分した「サイン」という区分を使います。それぞれのサインが12星座と対応づけられており、サインの区切りは毎月20〜23日ごろになっています。
ただし、ここで知っておきたい点があります。現在の太陽の実際の位置と、星占いのサインは一致しない場合があります。地球の自転軸はゆっくりと向きを変える「歳差運動」をしており、この運動によって春分点の位置は少しずつ移動します。黄道12星座が定められてから約2000年が経過した現在、春分点はうお座の領域にあります。
星占いのサインは歴史的な区分を引き継いでいるため、現代の実際の星座の位置とはずれています。天文学的な話として頭の片隅に置いておくと、夜空をより深く楽しめるでしょう。
春に太陽が通過する星座
春分(3月下旬)から夏至(6月下旬)にかけて、太陽はおひつじ座・おうし座・ふたご座を通過します。これらの星座が夜空で見やすいのは、太陽が反対側にある秋から冬にかけてです。
おひつじ座
12星座のトップバッター。明るい星が少なく、3つの星が描く逆「く」の字が目印です。秋の宵空に高く昇り、見やすいのは10〜11月ごろです。
神話のモデルは、兄妹を危機から救った「黄金の毛をもつ羊」。役目を終えた羊の毛皮は「黄金の羊毛」と呼ばれる伝説の宝物となり、のちの英雄神話へとつながっていきます。
天文学では、この星座が長い間「宇宙の座標の出発点」という役割を担ってきました。古代バビロニアの時代、春分の日に太陽がいたのがおひつじ座の領域だったため、「1年の始まりの星座」として黄道12星座の1番目に置かれました。現在の春分点は歳差運動によりうお座に移動していますが、天文学の座標系では今も♈の記号が春分点として使われています。

おうし座
赤みがかった1等星アルデバランと、青白く輝く星の集まり「すばる(プレアデス星団)」が目を引く星座です。夜空で見やすいのは11〜1月ごろで、冬の夜空の見どころのひとつです。
神話のモデルは、大神ゼウスが変身した白い牡牛。フェニキアの王女エウロペに近づくため、姿を牛に変えたゼウスの姿が天に刻まれたとされています。
アルデバランは太陽の約44倍の直径をもつ赤色巨星で、地球からの距離は約65光年。すばるは肉眼でも6〜7個の星が集まって見える散開星団で、地球から約440光年の距離にあります。

ふたご座
仲良く並んだ2つの明るい星、カストルとポルックスが目印です。夜空で見やすいのは12〜2月ごろで、冬の星座の一角を担っています。
神話のモデルは、ゼウスの子ポルックスと、人間の血を引く双子の兄カストル。2人は死さえ分かつことができない絆で結ばれており、カストルが命を落とすと、不死のポルックスも己の不死を分け与え、兄弟は天へと昇りました。
カストルは肉眼には1つの星に見えますが、実際には6つの星が互いの重力で引き合う「6重連星系」です。肉眼ではわかりませんが、こうした事実を知ったうえで見上げると、少し違った見え方をするかもしれません。

夏に太陽が通過する星座
夏至(6月下旬)から秋分(9月下旬)にかけて、太陽はかに座・しし座・おとめ座を通過します。これらが夜空で見やすいのは冬から春にかけてです。
かに座
12星座の中で最も地味と言われることが多い星座です。明るい星がなく、夜空が比較的暗い場所でないと全体の形を掴むのが難しいでしょう。見やすいのは2〜3月ごろです。
神話では、英雄ヘラクレスとヒュドラが戦う場面に登場します。ヘラクレスの足元を挟もうとしたカニは、すぐに踏み潰されてしまいましたが、ヘラを助けようとした勇気を称えられ、天へと置かれたとされています。
星座の中心付近には「プレセペ星団(M44)」が位置します。肉眼でもぼんやりとした輝きに見え、双眼鏡を向けると無数の星の集まりとして楽しめます。「蜂の巣星団」とも呼ばれ、地球から約520光年の距離にあります。

しし座
「?マーク」を逆にしたような形と、その底にある青白い1等星レグルスが目印です。見やすいのは3〜4月ごろで、春の夜空で最も存在感のある星座のひとつです。
神話のモデルは、英雄ヘラクレスが最初の試練で退治したネメアのライオン。不死身の力をもつとされたこの獅子を素手で倒したヘラクレスの武勇を称えて、天に置かれたと伝えられています。
レグルスは太陽の約3.5倍の質量をもつ若い星で、自転速度が非常に速く、赤道付近が膨らんだ楕円体の形をしています。地球からの距離は約79光年です。

おとめ座
全天で2番目に面積の大きい星座で、白く輝く1等星スピカが目印です。見やすいのは4〜5月ごろで、北斗七星の柄の延長線上にスピカを見つけることができます。
神話では、大地の実りを司る女神デメテルの娘ペルセポネ、あるいは正義の女神アストライアの姿とされています。アストライアは人間の世界が乱れるにつれ天へと帰っていった最後の女神で、手に持つ麦の穂がスピカに対応しているとも言われます。
スピカは実際には2つの星が互いの重力で引き合う「連星系」で、両者の距離は非常に近く、互いの引力で楕円形に変形しています。地球からの距離は約250光年です。

秋に太陽が通過する星座
秋分(9月下旬)から冬至(12月下旬)にかけて、太陽はてんびん座・さそり座・いて座を通過します。これらが夜空で見やすいのは春から夏にかけてで、特にさそり座・いて座は夏の夜空の主役です。
てんびん座
12星座の中で唯一、生き物でも人物でもない「道具」の星座です。もとはさそり座のハサミとして描かれていた部分が、後に独立して星座になりました。夜空で見やすいのは5〜6月ごろです。
神話では、正義の女神アストライアが善と悪を測るための天秤を表しているとされています。
てんびん座のβ星「ズベン・エル・シェマーリ」は、天文愛好家の間で「肉眼で見える緑色の星」として話題になることがあります。ただし、恒星が緑色に見える物理的な理由はなく、個人の感覚や観測条件によるものとする見方が強いです。実際に夜空で確かめてみるのも面白いでしょう。

さそり座
夏の夜空を南に引き込む大きなS字カーブ。日本では南の低い空に現れ、全体の姿を見るには視界が開けた場所が必要です。見やすいのは6〜8月ごろです。
神話では、巨人の狩人オリオンを一刺しで倒したサソリとされています。オリオンが「自分は世界一の狩人だ」と豪語したことで神々の怒りを買い、大地の女神ガイアがサソリを放ったとされています。オリオン座とさそり座が夜空で正反対の位置にある(一方が昇るとき、他方は沈む)ことは、この神話を反映していると昔から言われてきました。
さそりの心臓に位置する1等星アンタレスは、太陽の約700倍以上の直径をもつ赤色超巨星です。「アンタレス」は「火星に対抗するもの」を意味し、赤みがかった色が火星と似ていることに由来します。地球からの距離は約550光年です。

いて座
さそり座の東に続き、天の川が最も濃く輝く方向に位置する星座です。星が描く形が「ティーポット」に似ているとして、西洋では親しまれています。見やすいのは7〜8月ごろです。
神話のモデルは、半人半馬(ケンタウロス)の賢者ケイロンとも、また別のケンタウロスとも伝えられます。弓を引き絞った姿が描かれています。
いて座の方向は、天の川銀河の中心(銀河中心)に当たります。この方向の天の川が最も明るく見えるのは、銀河の中心部に向かって星が密集しているためです。銀河中心の方向には超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」が存在することが確かめられており、その質量は太陽の約400万倍と見積もられています。

冬に太陽が通過する星座
冬至(12月下旬)から春分(3月下旬)にかけて、太陽はやぎ座・みずがめ座・うお座を通過します。これらが夜空で見やすいのは夏から秋にかけてです。
やぎ座
逆三角形のような形が特徴で、上半身がヤギ・下半身が魚という独特の姿で描かれます。夜空で見やすいのは8〜9月ごろです。
神話では、神々の宴の席を怪物テュポンに急襲された際、パニックになって逃げようとした牧神パンが、魔法で姿を変えようとして変身に失敗した姿だとされています。上半身はヤギ、下半身は魚という不完全な変身のまま川へと飛び込んだ姿が、そのまま天に刻まれました。
明るい星は少ないものの、秋の夜空で比較的形を追いやすい星座のひとつです。

みずがめ座
秋の夜空に広く散らばる大きな星座ですが、目立つ星が少なく、全体の形を追うのには慣れが必要です。夜空で見やすいのは9〜10月ごろです。
神話では、大神ゼウスに見初められ天界へと連れ去られた美しい若者ガニュメデスが神々に水を注ぐ姿、あるいは水瓶から大地に水を注ぐ水の神の姿とされています。
みずがめ座の方向には「らせん星雲(NGC 7293)」があります。これは惑星状星雲と呼ばれる天体で、太陽のような星が一生の最後に外層を吹き飛ばした後に残したガスの殻です。地球からの距離は約650光年で、惑星状星雲の中では天球上の見かけの大きさが最大級のものです。「神の目」と呼ばれることもあります。

うお座
12星座の最後を飾る星座で、2匹の魚が紐で結ばれた形で描かれます。明るい星が少なく、夜空が暗い場所でないと形を追いにくい星座です。夜空で見やすいのは10〜11月ごろです。
神話では、愛の女神アフロディテとその息子エロスが、怪物テュポンから逃げるために魚に姿を変えた際、はぐれないようにリボンで体を結んだ姿とされています。
現在の春分点はうお座の領域にあります。これは歳差運動の結果で、かつておひつじ座にあった春分点が約2,000年かけて移動してきたものです。今後さらに歳差が進むと、春分点は隣のみずがめ座へと移る予定で、これが「水瓶座の時代」と呼ばれる由来でもあります。

参考文献