12星座の中で、唯一「生き物ではない」星座をご存知でしょうか。
それが「てんびん座」です。動物でも人間でもなく、ただ静かに釣り合いを保つ「天秤」という道具だけが、星座として夜空に置かれています。
なぜ天秤が星座になったのか。そしてこの星座には、「宇宙で唯一の緑色の星」と語られることもある星が隠れています。今夜は、てんびん座にまつわる物語と、その正体に迫ります。

てんびん座の神話|正義の女神アストライアが残した天秤
てんびん座の物語は、「おとめ座」として星座になった正義の女神アストライアの続きです。
人間たちが争いをやめない時代、神々は次々と地上を去っていきました。最後まで地上に残っていたアストライアは、人間の善悪を測るために、いつも黄金の天秤を手にしていたといいます。
しかし、彼女もついに人間に絶望し、天に昇っておとめ座になります。そのとき、彼女が手にしていた天秤も一緒に夜空へ上げられ、おとめ座の足元で輝く「てんびん座」になった、と伝えられています。

てんびん座の見つけ方|スピカとアンタレスを目印に探す
てんびん座は、目立つ1等星を持たない、控えめな星座です。
見つけ方のコツは、周りの星座を目印にすることです。
- おとめ座の1等星「スピカ」を見つける
- さそり座の赤い1等星「アンタレス」を見つける
- その2つの星の間に視線を移す
そこに、「く」の字を裏返したような、歪んだ四角形の星の並びが見えてきます。それがてんびん座です。

ズベン・エス・カマリとは?|緑色に見える星の謎
てんびん座の中で、特に注目したいのがβ(ベータ)星「ズベン・エス・カマリ(Zubeneschamali)」です。
アラビア語で「北の爪」を意味するこの星には、ひとつの謎が伝えられています。
星の色は「温度」で決まる
星の色は、表面温度によって決まります。
- 温度が高い星:青や青白い色
- 中温の星:白や黄色
- 温度が低い星:オレンジや赤
この物理法則の上では、「緑色に見える星」は存在しないとされています。可視光のスペクトルの中で、緑色の波長は他の色と混ざりやすく、人間の目には白っぽく感じられてしまうためです。
それでも「緑」だと言われる理由
ところが、ズベン・エス・カマリについては、古くから多くの観測者が「白というより、淡い緑色に見える」と記録に残してきました。
現代の天体観測でも、「エメラルドのように見えた」という報告と、「やはり白に近い」という報告が両方あり、はっきりとした結論は出ていません。
理論上は存在しないはずの「緑」が、なぜこの星だけ語られ続けるのか。正確な答えはまだ出ていません。
なぜ「天秤」になったのか?|さそり座から独立した星座
てんびん座は、もともと「さそり座のハサミ」の一部だったという説があります。
それが独立した星座として扱われるようになったのは、古代ローマの時代のことです。当時、秋分点(昼と夜の長さがほぼ同じになる日の、太陽の位置)が、ちょうどこの星座のあたりにありました。
「昼と夜が釣り合う場所」という天文学的な位置づけが、「バランスを取る天秤」という意味と結びつき、さそり座のハサミから切り離された独立した星座として扱われるようになった、と考えられています。
つまり、てんびん座という名前は、神話だけでなく、天体の動きという観測事実とも結びついた星座なのです。
なお、地球の歳差運動によって秋分点の位置は少しずつ移動するため、現在はてんびん座にはありません。
現代との接続:天秤座の方向にある、もうひとつの「バランス」
てんびん座にまつわる話は、神話と古代の天文学だけではありません。
この星座の方向には、「グリーゼ581」という恒星があります。この星の周りでは、地球に近い大きさの惑星がいくつか発見されており、かつてはハビタブルゾーン内の惑星候補も報告され、大きな注目を集めました
惑星の詳細についてはまだ議論が続いていますが、「暑すぎず、寒すぎない」という条件は、まさに”釣り合い”の話です。
善悪を測り、昼と夜を測った天秤が、宇宙では「生命にとってのバランス」が成立する場所も指し示している。そう考えると、てんびん座の見え方が少し変わってくるかもしれません。

まとめ:今夜は天秤の「色」と「位置」に注目
てんびん座は、地味に見えて、実はいくつもの謎を抱えた星座です。
おとめ座のスピカと、さそり座のアンタレスの間。控えめに輝く四角形を見つけたら、その中のズベン・エス・カマリに注目してみてください。あなたの目には、白と緑、どちらに見えるでしょうか。
※神話には地域や時代によって複数の伝承があります。本記事では、代表的な物語を紹介しています。

参考文献