夏の夜、南の空を低く見渡すと、赤みがかった星を中心に、ゆるやかなS字カーブが横たわっているのが見えます。これがさそり座です。12星座のなかでも形のわかりやすさは随一で、神話との結びつきも鮮明な星座です。

神話|傲慢な英雄を仕留めた刺客
さそり座の背後にあるのは、「英雄オリオンの最期」という物語です。
狩人オリオンは巨体と腕力を誇り、ある日こう言い放ちました。「地上のすべての獣を狩り尽くしてみせる」と。大地の女神ガイア(一説には女神ヘラとも伝えられます)はこの言葉に怒り、刺客を差し向けました。それがサソリです。
武器では倒せない相手を正面から打ちのめしてきたオリオンでしたが、サソリは素早く、猛毒を持っていました。足元に忍び寄ったサソリは、かかとを刺し、オリオンを絶命させます。小さな生き物の持つ毒が、最強の狩人を葬ったという物語です。その功績を讃えられ、サソリは夜空に上げられました。

神話と星空の対応|二つの星座は永遠に出会わない
この神話には、実際の星空と正確に対応する「オチ」があります。
さそり座とオリオン座は、天球上でほぼ正反対の位置(約180度)にあります。そのためさそり座が夜空に現れる夏の夜、オリオン座は地平線の下に沈んでいます。逆に、オリオン座が輝く冬には、さそり座は姿を消します。
古代ギリシャの人々はこの星の動きに気づき、「オリオンは今もサソリを恐れて逃げているのだ」と語り合いました。現象に物語を重ねる、星座文化の典型的な例です。
星座の形と見つけ方|S字カーブを南の低空に探す

さそり座は、他の星座とくらべて形がわかりやすいことで知られています。
南の空低くに、なだらかなS字を描く星の列が横たわっています。上半身にあたるハサミの部分は、古代にはサソリのハサミと考えられていました。後に独立して現在の「てんびん座」になりました。
日本では、この尾の曲がり具合が釣り針に見えることから、瀬戸内地方の漁師たちに「魚釣り星(うおつりぼし)」と呼ばれていました。ハワイでも同じ形を「マウイの釣り針」として神話に組み込んでいます。同じ星列が文化をまたいで「釣り針」に見えるというのは、形の説得力を示しています。
南の空が開けた場所で、7月から8月ごろに南南西の方向を見ると、全体の姿を確認しやすくなります。日本では南の地平線ぎりぎりに見えるため、視界を遮るものが少ない場所を選ぶのがポイントです。

アンタレスとは?|さそり座の心臓で赤く輝く1等星
さそりの心臓部にあたる位置で、ひときわ赤く光る1等星があります。これが「アンタレス」です。
名前の由来はギリシャ語の「アンチ・アーレス(Anti-Ares)」。アーレスは火星を意味する言葉です。つまり「火星に対抗するもの」という名です。夜空を動き回る火星もやはり赤く見えるため、同じ赤い星が二つ並んだとき、どちらがより赤いか見分けにくくなることがありました。そこから「火星のライバル」という意味でこの名がつけられたとされています。

アンタレスが赤いのは、表面温度が低いためです。星は表面温度が高いほど青白くなり、低いほど赤みを帯びます。アンタレスは「赤色超巨星」と呼ばれる段階にある星で、太陽の太陽の数百倍の大きさを持ちます。もし太陽の位置にアンタレスを置いた場合、その外縁は火星軌道付近にまで達します。

この大きさは、核融合で水素を燃やし尽くした後、外層が膨張した結果です。赤色超巨星の段階を経た後、星は超新星爆発を起こして終わりを迎えます。アンタレスがいつそれを起こすかは現時点ではわかっていませんが、天文学的なスケールで見れば、その段階に近い状態にあります。
夜空でアンタレスを見るとき、あの赤さは老いた星の色です。収縮と膨張を経て、今の姿になっています。
夏の夜、南の空でS字に連なるさそり座を見つけたら、その心臓部で赤く光るアンタレスに目を向けてみてください。あの赤さは、表面温度の低さと、星の進化段階を示す色です。神話のなかでは英雄を葬った刺客として描かれ、星空の上では火星と見まがうほどの赤を放ち続けています。

参考文献