夜空にはたくさんの星があり、それらを結んで想像する星座も多くの種類があります。そのなかでも一般に広く知られているのは、星占いの12星座ではないでしょうか。そんな12星座のうち、さそりを見張る星座、いて座について解説していきます。

星座の形:サソリを狙うスナイパー
まずは夜空での姿を確認してみましょう。 いて座がいるのは、他の記事で紹介した「さそり座」のすぐ東側(左隣)です。
彼が持っている弓矢にご注目ください。 その矢じりは、常に隣の「さそり座の心臓(アンタレス)」に向けられています。
もし、あの猛毒のサソリが再び暴れ出し、天上で悪さをしようとしたら、即座に射殺する。 そのために、大神ゼウスがこの位置に配置したと言われています。 さそり座がオリオン座を追いかけている間、いて座は後ろからサソリを見張っている。 夜空の治安は、この絶妙なパワーバランスで保たれているのですね。
神話:傷ついた不死身の賢者
いて座のモデルは、半人半馬のケンタウロス族の賢者「ケイロン」です。 (※南の空の「ケンタウルス座」と混同されがちですが、神話ではどちらもケイロンのエピソードとして語られることが多いです)
ケンタウロス族といえば、酒と暴力を好む野蛮な種族として知られていました。 しかし、ケイロンだけは違いました。 アポロンから音楽や医学を、アルテミスから狩猟を学んだ彼は、非常に賢く、多くの英雄たち(ヘラクレス、アキレウス、カストルなど)を弟子に持ち、育て上げました。
しかし、彼の最期は皮肉なものでした。 原因は、またしても英雄ヘラクレスです(このブログで何度も登場するトラブルメーカーですね)。
ヘラクレスが他のケンタウロス族と喧嘩になり、放った矢が、誤って師匠であるケイロンの膝に当たってしまったのです。 その矢には、あの「うみへび座(ヒドラ)の猛毒」が塗られていました。
ケイロンは不死身の体を持っていたため、毒で死ぬことができません。 「死ねない」ということは、「永遠に毒の苦しみが続く」ことを意味します。 あまりの激痛に耐えかねたケイロンは、不死の力を他者に譲り、自ら死ぬことで安らぎを得る道を選びました。
多くの英雄を育て、傷を癒やしてきた名医が、自分の傷だけは癒やせなかった。 ゼウスはその死を惜しみ、彼を空に上げて星座にしたと伝えられています。
注目の星:夜空のティーポット
いて座を探すとき、一番簡単な目印があります。 それは「ティーポット」です。
いて座の上半身(弓を引く腕と頭の部分)の星を繋ぐと、取っ手と注ぎ口がついた「急須(ティーポット)」の形に見えるのです。 海外では「Milk Dipper(ミルクさじ)」とも呼ばれますが、日本ではティーポットの方が有名ですね。
そして、ここからがロマンチックなポイント。 このティーポットの「注ぎ口」のあたりから、夜空に白いモヤが立ち上っています。 そう、「天の川(Milky Way)」です。
まるで沸騰したポットから、白い湯気がシュワシュワと噴き出しているような光景。 夏の夜、空が暗い場所に行けたら、ぜひこの「星空のティータイム」を探してみてください。
星の科学:そこは銀河の「中心」
なぜ、いて座のあたりで天の川が濃くなっている(湯気が出ている)のでしょうか?
それは、いて座の方角こそが、私たちの住む「天の川銀河の中心(銀河核)」だからです。
地球から見て、いて座の方向(約2万6000光年先)には、銀河系の星々が密集しています。 そしてその中心には、「いて座A*(エースター)」と呼ばれる巨大ブラックホールが潜んでいることが分かっています。
ブラックホールそのものは見えませんが、その周りに集まる星々の猛烈な光が、あの濃い天の川を作り出しています。 いて座の矢は、サソリを狙うと同時に、私たちの銀河の心臓部、とてつもないエネルギーの渦巻く場所を指し示しているのです。
いて座は、哲学的な賢者の顔と、銀河の中心という神秘的なエネルギーを併せ持つ星座です。
自らの苦しみを乗り越えて星になったケイロン。 彼の放つ黄金の矢は、サソリを牽制しながら、遥か彼方の「銀河の果て」や「真理」を目指しているようにも見えます。
冬の寒空の下、南西の空に沈んでいくティーポットを見つけたら、温かい飲み物でも飲みながら一息ついてくださいね。
参考文献
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